医大・医学部受験プロ家庭教師 入試解剖

防衛医科大学校の傾向と対策

生物(2012年)の傾向と対策

こんにちは、リーダーズブレインで生物を担当する講師の天津丸です。今回は防衛医科大学校(以下、防医)、2012年度入学者のため2011年実施・生物の分析です。毎年、秋が深まる10月最後の土日くらいのオシャレな時期、一般の大学に先んじて入学試験を実施します。受験生にとってはまだまだ追い込みが足りない時期であるのもどこ吹く風、風格も防医様くらいになってくると真の医道を志す者への訓戒を垂れるが如く、情けも容赦もなく細緻きわまる知識問題をビシバシ浴びせかけます。その激しさたるや、ビシバシ音がいつ聞こえてきてもおかしくないほどです。そんな権威を相手にコラムを執筆するなんて単なる酔狂に過ぎませんが、怯えながらも敢えて手を出してしまうのが筆者の性分なのでした。

総評

冗談はほどほどにしまして、まずはボリュームと制限時間です。理科2科目で120分なので生物1科目に懸けられる時間は60分と考えてよさそうです。大問4つすべてに答え切るには相当のスピードが必要です。そのうえ伝統的に防医は信じ難いほど細かい知識を要求します。その有様はまるで教科書の存在を無視するがごとくです。国立大学とはいえ防医は文部科学省のお目付けには入っていませんから誰も文句は言えません。
そういうわけですから、解けそうにない問題に時間を割くことこそ避けなくてはならない障害です。「捨て問」の線引きには重々ご注意下さい。とかく優秀な読者の皆さんは「もう少し考えれば答えが浮かぶはず」と思いがちですから。解ける問題から片付けていく習慣をつけていくのが良策です。
さらに一言付け加えるなら、本年度は4問立ての大問全てが、「生物の生活と環境」に絡められています。医学部入試のメインディッシュを担う「遺伝」も「発生」もかなぐり捨ててそこに照準を絞るのは注目に値します。例年の傾向からすれば、動物、植物、生理学、生態学、進化学をバランスよく配合した広い範囲からの出題が特徴的です。
また、形式上の動向から見ると2000年代後半までは最後の大問が超絶的な知識を試す正誤問題でしたが、近年はしばらく見られません。
では、少し細かく内容を見ていきましょう。

入試問題解剖

Ⅰ.

《ホメオスタシスは2路線で保つ》

恒常性の維持に関する問題でした。

のっけの適語補充から受験者の不安を煽る展開です。60kgの人体に含まれる水の量(L換算)を答えないと初問の得点を与えられません。人体の水分含有率は知識問題、さらに具体値を求めるのは計算問題です。ヒトの水分含有率は乳児で7割、成人で6割といわれていますから、その中間0.65を乗じて39Lが正解でしょうか。先が思いやられます。

話は行動性調節と自律性調節を2本柱にして進められます。前者は意識を伴うものであるのにたいし、後者は自動的に起こる生理現象である点が目立った違いです。行動性調節の例を示すことが問題にされていますが、服を着込む、暖房をつけることのほかにも、全身を緊張させたり盛んに動かしたりすることも挙げられます。さらに自律性調節の方は自律神経系と内分泌系という2つの経路によって制御されます。両者とも、かなり詳しい知識を持っていることを前提とした作問になっており、容易に正解はできません。

《ホルモンとバイオリズム》

この勢いは後半にはいってなお拍車がかかります。文字通りに考えれば、ほぼ1日周期で起こる自律的な変動は概日リズムが適当です(日周性を正解とする過去問集があります)。このリズムを司るのが体内時計であり、中枢は間脳視床下部にある視交叉上核という部分です。ここでは、網膜から送られた光刺激を、脳の中央部に位置する松果体に送ります。松果体はメラトニンというホルモンを分泌します。何となく見覚えのある名前ではないでしょうか。メラトニンは睡眠のリズムを整えるなど、忙しい現代人には大きな関心の的になります。ですから皆さんも健康関連の雑誌やテレビ番組で見かけたことがあるのかもしれません。このように動物の日周性を調節するには光刺激が正しく伝達されることが必須です。受験生といえども、部屋の灯りを煌々と照らして夜更かししたりカーテンを閉めきって朝寝坊したりの生活では健康面からいってあまりおすすめできません。逆に、時差ボケや乱れた生活リズムを改善するのに、一定時間の光を浴びることが有効だという報告があります。
このようにホルモンバランスはすべてのヒトにとって重要ですが、とくにそれは女性に当てはまります。28日周期の月経周期を司る内分泌系は巧みに作用しあい、体内のリズムを調節します。問題になっている体温変動を調節しているのは濾胞(卵胞)ホルモンのエストロゲンと黄体ホルモンのプロゲステロンです。それぞれ前者は低温期に、後者は高温期に多く分泌されます。
さて迎えた最終問題、動的平衡を唱えた学者が問われます。正解された方は超が付くほどの上級者です。何せ、そこらの参考書・資料集には載っていません。動的平衡(ターンオーバー)とは、一定の物質が同じバランスで永久に留まっているのではなく、つねに新陳代謝を繰り返しながらバランスを保つ仕組みを言います。これを実証したのがシェーンハイマー博士です。実はそのときの実験が同位体元素を用いた分析法の世界第1号です。

Ⅱ.

《失礼ですがどちら様でしょう》

免疫学とその歴史に関する問題でした。
適語補充が選択式になったのにも関わらず前問以上の難しさになっているのはどういうわけでしょうか。問1.の選択肢には見覚えのある研究者からどこの国のゴロツキだろうと思わせる名前まで一緒くたにズラリと並んでいます。正解となっている研究者は解説を読んで覚えていただくことにしましょう。

・木原均:ゲノム説、コムギのゲノム分析、倍数体
・サンガー:インスリンのアミノ酸配列決定、DNA塩基配列を特定するサンガー法の発明
・利根川進:抗体の多様性の解明
・ブラックマン:光合成が明反応と暗反応からなることを発見
・ローマン:ATPの発見
・ヨハンセン:純系集団内では獲得形質が次代に受け継がれないという純系説を提唱

また、血清療法の開発で名高い北里博士はベーリング博士と共同研究者の関係にあり業績に多大な貢献をしたにも関わらず、ベーリング博士にのみノーベル賞が授与されたというエピソードも有名です。白血球の食作用を発見し細胞性免疫の概念を築いたメチニコフ博士は、ヨーロッパにヨーグルトを普及させた張本人であり、腸内を乳酸菌で満たそうと大量のヨーグルトを召し上がったというお茶目なノーベル賞受賞者です。

《医学と生物学の架け橋》

さて、こちらの大問は本年度でも折り紙つきの難問です。一つ一つ詳しく見ていきたいところですが、いちいちコメントして行けば切りがないので書けないことは他の大学のコラムに譲ることにします。筆者が注目したいのは、問6.~9.です。これらは生物学の知見を医療の現場に導入するための架け橋、応用生物学の問題になります。これらのなかでもツベルクリン反応を扱う問.6はまだ手の出しようがありますが、ほかは見かける頻度も少ない発展的なものですので答えきるのは至難の業です。
問.7に登場するのはELIZA(イライザ)法のなかでも競合法という微量タンパク質の検出・定量法です。試料中のタンパク質と、同じタンパク質に修飾を加え色付けできるように調製したものを用意し、試験管の壁に固定した抗体に結合する競争を行わせます。当然多数派が多くの抗体をおさえてしまうので、試料中のタンパク質が多いほど着色できるタンパク質は試験管に留まることが出来ません。したがって、試料中のタンパク質量と発色の度合いは反比例と同様の関係を示します。
問8.では、インフルエンザ診断キットの原理に触れるような問題です。検体という用語は馴染みが薄いかもしれませんが、被験者の組織から採取したサンプル、つまり鼻水や粘膜のようなものを想像してください。検体にはウイルスが入っている可能性があります。そしてキットに用意されているのは抗体B、これはウイルス表面にある「フック」に引っ掛かる「タグ」です。「タグ」はそのままだと非常に見えにくいので、基質を「ペンキ」がわりに使ってお化粧します。色付けた抗体Bは展開液によってウイルスのところまで運びます。ウイルスがあれば、色付きB分子で染まっていきつつ、旅は道連れと展開液でドンブラコ。やがてたどり着いたが抗体C、こちらもウイルスを引っ掛ける「フック」を持っています。ですが抗体Bのものよりずっと太い鍵穴に食い込み、一度ウイルスを捕らえると決して離しません。こうして、展開液自体は抗体Cの待ち構えるエリアにたどり着いた後も足を止めずに進みますが、色付きウイルスだけはここでがっちり足止めされるわけです。どのようにしてウイルスに着色したか、またウイルスを捕捉したかの2点が重要です。
つづく問題も話題が豊富ですが、先を急がなくてはなりません。またの機会にゆっくりお聞かせします。とくに、問9.の生体移植の問題は本年度も弘前大学医学部の入試で出題されていますから、そちらのコラムに掲載する予定です。

Ⅲ.

《働く彼女、君臨する彼女、雄バチはつらいよ》

昆虫ホルモンと発生に関する問題でした。
本年度ではもっとも解きやすい問題でした。ここで得点を稼いでおかなくてはいけないでしょうし、逆にミスを犯せば致命傷になります。予め注意しておくことは、昆虫のような無脊椎動物のホルモンも脊椎動物のものと同様、標的器官の特異性は高く、種特異性は薄いということです。
中心に据えられているのが代表的な社会性昆虫のミツバチで、日本には採蜜用にニホンミツバチとセイヨウミツバチの2種が広く飼育されています。社会性昆虫は個々の存続以上にコロニーの存続を優先する、献身的な昆虫さんたちのお陰で今日の繁栄に浴しています。ミツバチの性決定は半倍数型と呼ばれる仕組みで成り立ちます。受精した卵からは2倍体の個体が生まれ、それらはすべて雌になります。問題にもある通り、そのうちでローヤルゼリーを与えられた雌のみがエサに含まれるロイヤラクチンの刺激を受けた結果、若さと健康を保つホルモンをたっぷり分泌できるようになったことを天運に、卓越した驚異の成長を遂げて女王バチとなります。残りの雌はすべて働きバチとなって一生を過ごします。一方、受精しなかった卵もしぶとく発生を続け、ついには半数体の個体が生まれます。それが雄バチです。雄バチはやがて羽化して新天地を求めて旅に出ます。でもそれまでの実家生活はもっぱら働きバチにエサを与えてもらうばかりで、雄バチは断固たる姿勢で働くことに背を向けます。ついに訪れた旅立ちの時、この時ばかりはゲンを担いでか晴れの日を選ぶのですが、雄バチも気楽な男の一人旅というわけにはいきません。何と、怠け者が連れ立ってのオトコ同士の集団旅行となります。とはいえいくらズボラの雄バチにとっても次代を担うジュニア世代を世に出すために他家の女王へアタックしに行く果敢な冒険ですから、ミツバチの家系図を絶やしてしまえばそれこそお家の恥となりますので責任は重大です。巣の中では怠けに怠けた雄バチもそういうときは頑張ります。
かくしておふざけ半分に観察して行けども、ミツバチの社会では女王バチも働きバチも雄バチも皆が重大な役割を背負っているのですね、めでたし、めでたし。このようにうまく締めたいところですが話は終わりません。交尾が出来ずにすごすごと巣に戻ってきた雄バチはというと働きバチからすっかり見放され、やがて巣を追い立てられた末に野垂れ死にをするのだそうです。
そういえば筆者の若かりし頃(小学校に上がる前)、ミツバチのハッチが生き別れになった母のマーヤを探して冒険する感動のアニメ『みなしごハッチ』を視聴してはハッチを襲う危機に毎回ハラハラさせられていました。ハッチは「王子」という設定ですから、色々な意味でその後の安否が気遣われます。

《伸縮自在?のオーキシン》

植生に関する問題かと思いきや植物ホルモンが主役でした。前半部は半ばドタバタ劇の展開で話があちこちに飛びます。もっとも、設問自体は前半2つの大問と比較すれば大幅に易しいのでさしたる弊害はありません。問5.以降が本題となります。ご丁寧にもリード文には植物の情報伝達を解明する実験の歴史をくまなく示してくれています。何を今更と泣き言がこぼれてきそうですがグっと我慢し、素直に解答の糧を拾い集めます。
先鋒の問5.は記入式の適語補充ですが、意表を突いた単語が伏せられています。落ち着いて読み返し矛盾がなければ成功とし、先を急いで下さい。お次の問6.は本年度で最も制限字数の多い60字の記述です。記述問題で厄介なのは字数より内容です。この問題も然り、植物体中でオーキシン含量が大きい部位を調べる方法を述べるわけですが、オーキシン量とアベナ茎頂の屈曲具合が比例するという簡単な仕組みさえ読み取れていればわけもありません。問7.を9.を見てみますと、オーキシン濃度による成長の促進と抑制の働き分けがテーマです。オーキシンは、茎が光方向に屈曲するためには光と反対側の成長を促進する必要があり、一方で根が光と反対側に屈曲するには同じ光と反対側の成長を抑制しないといけません。オーキシンの成長抑制作用を応用した除草剤も現在広く出回っています。代表的なものは2,4-Dで、広葉雑草を選択的に枯らすので水田の除草に用います。後回しにした問8.はオーキシンが引き起こしているより微視的な作用を考察させます。植物の成長は細胞分裂によるものと細胞肥大によるものに大別されます。オーキシンは細胞壁の強度を緩めますが、それだけでは成長が起こりません。吸水によって膨圧が生じることで初めて細胞の肥大が起こり、根や茎が伸長します。

最後に

読書の皆さん、ご拝読どうもお疲れ様でした。筆者も大変疲れました。
冒頭で申し上げた通り、筆者にとって永年防医・生物は高い壁であり、近づき難さはまさに最上級でした。しかし、反響はどうあれ書ききってみると清々しいものです。筆者自身まだまだ駆け出しを自認していますから、日々勉強中という立場は受験生の皆さんと同じです。口に出すと教訓じみていて我ながら気持ち悪い発言ですが、何にせよ越えるのが難しいくらいのハードルを設けておくことが成長のためにはちょうどよいようです。ともに頑張っていきましょう。
ということで、今回も長話にお付き合いいただきまして今更ながら恐縮ですが、少しでも興味ある記事を届け続けていこうと思いますので、どうぞ今後とも温かい応援をお願いします。礼。天津丸でした。

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