医大・医学部受験プロ家庭教師 入試解剖

千葉大学医学部の傾向と対策

生物(2012年)の傾向と対策

こんにちは、早稲田家庭教育センター講師・天津丸です。
今回は千葉大学医学部(以下、千葉医)、2012年度・生物の分析です。

総評

大学が用意した問題は全部で9つの大問からなりますが、本編では医学部志望者が解答すべき1~4の問題について述べます。本年度はかなり易しい問題で占められていた印象を感じ、不気味なくらいです。必要な生物学的知識はまさにセンター試験+α程度のレベルで、時事問題もありません。定番化された話題に関する問題がほとんどでした。ですが毎年恒例のごとく、論述にかけるウェイトは大きく、つじつまの合った文章を短時間で仕上げる能力が厳しく求められます。また、制限字数つまり求められる解答文のボリュームは経過時間と比例するように増加し、冷静時の処理能力を奪っていくようです。しかし再度言うようにパターン化された問題ばかりといって宜しいでしょうから、その内容にまで驚くことのほどではありません。全体を俯瞰してから着手する問題を考えるという作戦を取らずとも、素直に問題番号通り解き進めるのが正攻法と言えます。そうすれば実力通りの得点が期待できるはずです。そのような観点から、本年度の問題は、受験学年になり秋を迎えた頃に解いてみるのが丁度よいかと思います。つまり、その頃が生物の弱点を埋めていくのには適したタイミングです。センター対策を終わらせ二次試験対策に取りかかり始めたくらいの、本番までまだ間がある頃合いです。ただ受験生も十人十色ですから、いま本文を読んでいる皆さんは、身近なアドバイザーの意見こそ信頼できるものと考えてください。
では、少し細かく見ていきましょう。

入試問題解剖

1 細胞や組織、器官分化に関する総合的な問題でした。

《ウォーミングアップには持って来い》

リード文は短く平易で、見たことがないような学術用語も含まれていません。きわめて答えやすい問題が大半を占めます。3題ある論述問題はどれも、受験生活で一度は書いたことのある演習問題を再現すれば正解に至ることが出来るでしょう。問3で組織の分類が問われ少しばかりヒヤリとしますが、全問正解で次の問題に進んでいただくことを期待します。②の赤血球ですが、血液は上皮でも筋でも神経でもないので結合組織に収まります。
こちらの1は同年度に慶應大医学部が酷似した問題を出しています。慶医併願者には有利な出題でした。単なる棚ボタかもしれませんから深入りせず、先を急ぎましょう。

2 発生に関する問題でした。

《売れっ子・アフリカツメガエルは要領よくさばけ》

いくらモデル生物だとはいえ、アフリカツメガエルが早くも再登場する展開に苦笑いの一つも込み上げてくるくらいの余裕があれば、心強いところです。前問が生物の組織と分化、そして本問が発生を扱うという流れは、拍子抜けするほどヒネリのない問題構成です。合格を目指すならここで正解数を稼ぎ、一気に勢い付いてください。余談ですが、こちらのアフリカツメガエルは学名Xenopus laevisが付けられています。正式な読みはクセノプス・ラエヴィスですが、属名を英語読みしてゼノパスと呼ばれることが流行しているそうです。「また出たよ、ゼノパスの問題!」などと軽く使ってみると、業界人風の空気をまとった雰囲気を味わえてよい気分に浸れます。
問題はというと、図表がふんだんに盛り込まれており、面倒臭そうな気配がします。しかしこれもすでに見慣れたもので、たとえ図表に苦手意識を持つ受験生だろうと取りこぼしのないよう注意してください。表に示されている項目も数字ももっとも見やすい並びに配置されていますから、データ処理の苦労は免除されています。図に至ってはご丁寧に教科書通り左向きの極性(方向性)のもとで描かれています。「俎(まないた)の鯉」と同じ姿勢とは、なんとも潔いことでしょう。脊椎動物の胚発生を扱う入試問題では基本的に、向かって右から原腸が陥入します。思考力に長けた方ほどこの暗黙のルールを信用せず、問題文からその確証を得ようとして深読みし、時間を無駄遣いしてしまうようです。とくに国公立志望者の方は注意してください。ときには深く考えず動物的直感を働かせて要領よく片付けることも必要だ、ということだけでも心の片隅に残しておいて下さい。

《日本人が発見した驚くべき物質》

ところで本問の題材は、言わずと知れたアクチビンと呼ばれる総称のアレです。この物質が内胚葉から分泌されて中胚葉を分化させる、比較的分子量の小さい(つまり半透膜に近いものを透過できる)物質であることをご存知の方が多いでしょう。意外と知名度が低いのは、アクチビンの作用が日本人によって発見されたという事実です。これは、東京大学名誉教授・浅島誠博士の業績です。博士は1988年にアクチビンAの同定に成功し、その成果によって国内外の名誉ある賞を数々受賞されました。いつノーベル賞が授与されてもおかしくないという意見も頻繁に聞こえます。それでいて氏は我々にも身近な存在でおられ、文英堂から出版されている定番の参考書『理解しやすい生物』の共編者のお一人です。
本問のように、日本人による研究は生物入試問題で取り上げられる確率が増加します。実験考察問題に出会ったときは日頃から、どんな研究者が行ったものなのかを気にする習慣をつけておきたいものです。また、ノーベル生理学・医学賞および生物学と関連が深いノーベル化学賞ついては、日本人受賞者のフルネームを漢字で書けるようにしておくことをお勧めします。利根川進博士(とねがわすすむ、1987年、生理学・医学賞、抗体の多様性)、下村脩博士(しもむらおさむ、2008年、化学賞、緑色蛍光タンパク質)のお二人です。ちなみに、下村博士はホタルの光として有名なルシフェリンの結晶化に成功した実績もお持ちです。
本題に戻りましょう。問1~3はまず迷わずに答えられます。問題は問4・5です。アクチビンについて深い予備知識があるかないかで、消費した時間に大きな差が出てしまいます。実験考察問題で頻繁に出題されるところなので、この機会によく頭に入れておいて下さい。アクチビンは植物極背側(原口側)の割球から分泌されるペプチドで、中胚葉を誘導する働きがあります。これは濃度の違いによって分化させる組織・器官に変化を生じます。とくに、高濃度のアクチビンは脊索を誘導します。つまり、原口陥入部付近が分泌の中心と考えられます。発生の初期には高濃度で存在したアクチビンも、発生が進むにつれて徐々に濃度を減らします。これが実験2と3の結果に違いが生まれた理由です。
高校生物における発生学(とくに脊椎動物について)に関して、胚の予定運命を明らかにしたフォークトの実験を図解しようとしすぎる参考書はかえって複雑で難解です。アクチビンを中心にして理解を進めると非常に簡潔にまとまるのではないでしょうか。動画は動画で見るべきで、数え切れないほどの途切れた静画を解説付き(しかも難しい専門用語ばかり)で読めと命令されるくらいなら、いっそのこと原理だけ説明していただきたい。それから、イメージを膨らませる余裕を与えてほしい。そう筆者は考えていますが、お偉方の意見は如何に。

3 酵素の作用と阻害、タンパク質の構造に関する問題でした。

《迫りくる記述量のプレッシャー》

ここへ来て記述量が一段と増加し、苦しめられます。しかも、あまり書くことが思い浮かばない事例について、100字前後のボリュームを求められ、焦りを禁じえません。そのような文圧(文章的圧力…造語)への対処法として筆者がよく使う手段をこっそり紹介します。それは、修飾語句をふんだんに織り混ぜて文章を増量してしまうことです。例えば、「酵素」を「生体触媒である酵素」とか「特殊な立体構造を持ち特定の反応を促進する機能を持つ酵素」とか、好きなように膨らませてしまいます。
内容としては基礎レベルに留まっていますから、頑張って手を動かす体力勝負でした。pHCO2分圧による酸素解離曲線のシフトが絡んでくれば、少し程度の高い問題になったでしょう。

伴性遺伝と翻訳過程に関する問題でした。嘘かと思いますが、何とこちらも同年慶医と被った内容の問題です。伴性遺伝に起こる遺伝子疾患をテーマとした点から考えれば、大問が丸ごと被ってしまったと言えます。幸い、問題の「オチ」が異常タンパク質の翻訳前か後かで差が認められるので大騒ぎにはなりませんでした。ただ、併願者に有利だったことが文頭の時点より深く疑われます。名門校の荒探しをしていても何の社会貢献にもなりませんから、もっと解き甲斐のあるポイントを見つけることこそ、我が使命です。すっかり忘れていました。

《泥臭い戦法で難問を崩す》

こちらの4は問題の難易度もユニークさも他から群を抜いており、最後を飾るに相応しいものでした。前問より記述量は減りましたが、問2のフレームシフトに関する説明など、逆にコンパクトにまとめる力が問われます。処理力で言うと問3と4は頭を使う以上に手を使い、書き上げながら対応することがよい方法です。
図に示される‖、≪、≫の意味を理解し、図2の各エキソンに番号をふります。問題文は、言葉を変えると次のように言っています。

‖、≪、≫は順に、コドン番号の3、1、2で区切りなさい 」

その上で、エキソン14からエキソン29まで順に1-2、3、1-2、3、1、2-3、1-2-3、…と書き込んでいきます。こんな泥臭い解き方ですが、単純明解さで右に出る方法はありません。手を使うとはこういう意味です。
複雑に見える家系図は、終わってみるとほとんど使いませんでした。ある意味お飾りです。少しでも格好をつけて問題としての体裁を整えるのも出題者にとっては一苦労なのですね。

最後に

以上見てきた通り、本年度の千葉医生物はかなり基礎的なことが問題に扱われました。ほとんど差がつかない中での勝負になったことでしょう。いかに時間的ロスを省けたか、記述に合理性が備わっていたか、という点でじわじわと差ができていきます。
ということで、今回も長話にお付き合いいただきまして恐縮ですが、少しでも興味ある記事を届けていこうと思いますので、どうぞ今後も応援お願いします。礼。天津丸でした。

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