医大・医学部受験プロ家庭教師 入試解剖

東海大学医学部の傾向と対策

生物(2012年)の傾向と対策

  こんにちは、リーダーズブレインで生物を担当している講師の天津丸です。今回は僭越ながら2012年東海大学・医学部の生物入試問題を解剖してしまいます。こちらは私立大学医学部として長らく高い人気を誇ります。2013年度の一般入試は2月2日と3日に1次試験が行われます。2日には同じ人気医学部の東京医科大学も入学試験を実施します。私大医学部のなかでは、比較的遅い時期の入試となるので、2校目、3校目となる受験生も多くなってきます。高いレベルの競争になるでしょう。数字にも確かにそれは表れており、合格者の得点率は80%近い値になります。

総評

  まずは制限時間とボリュームです。70分で大問5つを解答します。記述問題はせいぜい50字程度と短めですが、使用語句を指定するなどの問題があるので逆にコンパクトにまとめる難しさがあります。実験考察問題は比較的シンプルなものが目立ちますが、一概には言えません。甘く見ていると痛い目に会うのが通り相場です。特徴的なのは知識問題で、知識の細かさと正確さを両方必要とします。直前の追い込みだけでは太刀打ち出来ないことを念頭において、1年、2年越しの対策をおすすめします。
  では詳しく見て参りましょう。

入試解剖

Ⅰ.

《幕開けは教科書の巻頭に》

  顕微鏡観察に関する問題でした。
  教科書でも最初に登場する分野の問題ですから、記憶が薄れている受験者も多かったことと想像できます。よりによって受験生にとっては触れないでほしいランキングでも長年上位を保っている顕微鏡的な大きさ比べが第1問から登場します。文字通り目に見えない奴ら(と言っては失礼ですが)がわんさか集まって大きさを張り合おうとは何たる酔狂かと不平を言いたくなりますが、そこは我慢のしどころです。とりあえずカエルの卵に王座を譲ってやることはできますが、後はなかなかすんなりとは参りません。熾烈な争いが各所で勃発しています。
  初戦は細胞膜とインフルエンザウイルスの勝負です。小さいといえどもウイルスは立派な高分子、一方の細胞膜は脂質二重膜というくらいですから前者が勝ちます。ウイルスの一種であるT2ファージが大腸菌の表面に付着している電顕写真もよい参考になります。これはまだ、落ち着いていれば対処はしやすい方です。より意地悪な問題となると、細胞膜は厚さ10nmであることがノーヒントで問われることもあるので注意が必要です。
  次の戦いは、大腸菌ヒトの赤血球ヒトの精子による三つ巴です。まずは精子と赤血球から比較していきましょう。暗記のきっかけをつくるポイントは細胞小器官です。有名なことですが、ヒトの赤血球は核を持ちません。分化の途中で捨て去ってしまいます。この印象が強すぎて、魚類や両生類など他の脊椎動物の赤血球は核を有するという事実を知らない受験生もよく見かけます。また、酸素の運搬効率は表面積に比例するため、小型の赤血球ほど進化していると言えます。進化を極限まで突き詰めるために、核どころかミトコンドリアまで捨ててしまうほど逞しいヒトの赤血球です。他方、精子は遊泳能力を高めるために細胞質こそ捨て去りますが、核がなければ受精できませんし、ミトコンドリアのエネルギー大量生産なしに泳ぎ続けることも不可能です。今度は赤血球と大腸菌の勝負です。細胞小器官を排除した真核生物の細胞が勝つか、それとも原核生物とはいえ立派に自活している大腸菌が勝つか、緊迫した試合です。大腸菌は細菌のなかでも桿菌という種類に属します。これらの菌の形状はソーセージのようなもので、一方向に伸びています。この長い方の軸と赤血球の直径で勝負を決しま す。僅差になりますが、大腸菌の3μmにたいし赤血球は7~8μmとなり、残念ながら原核細胞は破れ去りました。
  最後の試合は真核細胞同士の戦いとなります。単細胞としてでも立派に独立して生活を営んでいるゾウリムシと、次代を担う精鋭を残すために精一杯栄養を蓄えたヒトの卵との対決です。どちらも全うに細胞小器官を取り揃えているため、容易に判断はつきません。前哨戦に、ゾウリムシはが収縮胞なる1対のユニークな器官をアピールすれば、ヒトの卵も負けじと卵黄をひけらかします。ただ、後者は少し背伸びをしすぎている感が漂います。頂上から見下ろしているカエルの卵の冷ややかな笑いのせいでしょうか。卵黄といっても、カエルの卵のような端黄卵や鳥類の卵のような極端黄卵のものは規格外の大きさを誇りますが、ヒトのやウニの卵のような等黄卵の大きさは100μm~140μm程度にしかなりません。一方、ゾウリムシは小さいものだと90μmほどにしか成長しないものもあるようですが、大抵の教科書には200μm~300μmと記載されています。
  問4にも、同じような羅列が見られます。今度は歴史的研究者が大集合してしまいます。顕微鏡観察の礎を築いたのがフックとレーウェンフック、細胞説を唱えたのがシュワンとシュライデン、こちらも覚えにくさは1級品です。筆者の覚え方を紹介します。

① フック/レーウェンフック
前者はバネで有名なフックの法則を発見した物理学者で生物自体(コルクはあくまで遺物)は見ていない。それにたいし後者はアマチュアの微小物体愛好家で、使った道具もすべてお手製なのでシンプル。

② シュライデン/シュワン
動物には手腕(シュワン)がある。因みにシュワンは消化酵素ペプシンの名付け親でもある。

③ ブラウン
コロイド粒子のブラウン運動の詳しい報告を初めて行ったくらいなので、微小なものに精通しているから細胞の核も発見した。

④ フィルフョウ
細胞は細胞からふぇるひょー(殖えるよ)。

  書いていて言い知れぬ恥ずかしさに押しやられてきます。肌に合わなければ素通りし、何も言わずそっとしておいていただけると助かります。

Ⅱ.

《数えることも芸のうち》

  生物の集団における相互作用や集団遺伝に関する問題でした。
  この分野が出題されるとき、とくに頻度が高いのが用語の問題です。細やかな確認が必要です。本問で議論を呼びそうなものは下線部③です。生育条件の違いによって個体差が生じることが問われます。旺文社『全国大学入試問題正解2013』は括弧つきでありますが相変異も正解としています。トノサマバッタ、アフリカワタリバッタの孤独相と群生相は有名です。たしかにそれも決定的に間違いだとは言えません。しかし、相変異とは密度効果による変異に限ります。したがってより忠実に文意をくみ取れば、環境変異のみが正解として推奨できます。
  差が生まれそうな問題は問1.(4)の指定用語付きの記述問題です。字数は40字と控え目ですが、指定用語の接合子は注意を要します。受精前の精子や卵が配偶子に振り分けられるのにたいし、接合子とは受精卵のようなもので、配偶子同士の接合によって形成されます。受精と接合の違いは、両配偶子で形態や遊泳力に大きな差があるかどうかで決まります。
問2はがらりと変わって、ハーディ・ワインベルグの法則に関する問題群です。計算問題が(1)と(3)の2問出されますが、至極簡単です。分母と分子の概念さえあれば悩むに足りません。それぞれ分母にとるのは、(1)は全個体数の45、(3)では全部の対立遺伝子数45×2=90です。分子は両問題とも地道に数え上げなければならず、骨が折れます。
  大問Ⅱまでは比較的解きやすかったので得点を稼いでおきたいものです。

Ⅲ.

《カタカナ言葉にご用心》

  Ⅱに続いて遺伝が関連していますが、どちらかというと遺伝情報の発現が焦点となります。性決定や細胞のがん化機構が登場する問題でした。
この次のⅣと並んで、合否の分かれ目を決める大問です。鉢巻きを締めて取り組みましょう。
  出鼻でいきなり性転換などという見慣れない現象が取り沙汰され、力んでしまいますがここでひるんではいけません。問題内容に関わるのは問1だけです。本問の性決定は、リード文に書かれている通りの考察で正解に至りますが、2点注意しておきたいところがあります。まず、ヒトと異なりYYという雄が存在可能であるところです。これは、XYという雄とWYという雌との交配で産まれます。また、雌の遺伝子型にWWは不適です。WWという遺伝子(染色体)型の雌はWを持つ個体同士の交配からしか産まれませんが、そのようなものは性転換が起こらない限り雌同士の個体になるので交配できません。W染色体上のF遺伝子が強制的に雌の形質を発現してしまうからです。ちなみにどの遺伝子型の個体が性転換を行うかはリード文だけを頼りに判断することはできません。もっとも問題には取り上げられていませんから受け流してしまいましょう。
  そして早くも第1段落で出てくる厄介者のマクロメラノフォアなる細胞は、がん化する危険を孕むだけでなく受験生に与える威圧感も脅威です。ところで、なぜ癌細胞が恐ろしいのかをあまりご存知ではない方もいるのではないでしょうか。病気のイメージから、癌細胞とは人の寿命を奪うだけあって生命力の弱い細胞だと誤解されることが多いようです。しかしそれとは全くの逆で、異常な増殖を繰り返すものです。では、「異常な」とはどういうことでしょうか。その異常は、細胞分裂の準備が整わぬうちに勝手な分裂を開始してしまう細胞周期に関するものです。詳しい内容は機会を改めてお話いたしますが、癌細胞とくれば異常増殖という図式は記憶に残しておいて下さい。
  問2から問5までが一連の流れとなっていますが、問5から遡っていく構成の方が受験生にとっては親切だったと思われます。何故なら、遺伝形式が明らかになるのが問5だからです。詳しく紐解いていきましょう。まず、がん化する細胞の大元は性染色体上のSd遺伝子が黒色素細胞をマクロメラノフォア化することにあります。この細胞は抑制を受けないとがん化します。抑制を行うのはプラティの常染色体上にある遺伝子で、不完全優性に見られるように、ホモとヘテロの接合体同士で抑制の程度が異なります。つまり、ホモ接合体では背びれの黒斑点、ヘテロ接合体では全身体表の黒化、がん化抑制遺伝子をまったく持たない個体では致死型となります。前出の入試問題集では黒色素細胞を制御する遺伝子の働きについて、がん化の抑制までしか触れていませんが、リード文からはもう少し詳しい機構が推測できます。プラティの細胞と異常型の細胞との比較から、アドレナリンに反応して突起収縮を行う細胞に作用し増殖を阻むことでがん化抑制の仕組みが成り立つと考えることができます。本番の採点でも、この内容に触れている答案を正解とするのではないかと思われます。

Ⅳ.

《図太いDNA》

  細胞周期、とくにDNAの複製に焦点を絞りこんだ問題でした。
問3や問4.(2)のような計算問題で頭を抱えてしまった受験生も少なくなかったことでしょう。小数が出てきますから、正確な計算力が必要です。しかし比例と反比例の概念を焦らず丁寧に確認していけば式を立てるまではたどり着けます。コツは分数で式を立てること、掛け算・割り算は最終的な式が完成するまで行わないことです。そうすると手順を追っていけるのでミスの確認がしやすくなりますし、思わぬ約分で一気に式が簡単になる可能性に期待ができます。
  問4.(1)は読み取りづらい問題です。複製中の染色体の図に関する記述のうちで誤っているものを選びます。3H-チミジンシグナルが検出されない領域にも複製がすでに行われている部分が存在すると解釈すれば、旺文社が発表している通り(b)が正解と言えます。ただ、「両方向に」進行している複製をヌクレオチドに注目して5'→3'末端方向および3'→5'末端方向と判断すれば(c)も誤りを含むので選択肢としての正解と解釈できます。大学側が望まなかった選択肢を選んだ受験生にはご愁傷様としか言えませんが、そのようなことは受験に付き物です。
  作図問題も2問が出題されました。問1は1つあたりの核と細胞それぞれについてDNA量の推移を示すという見馴れたものです。もう1問が3H-チミジンを取り込んだDNA鎖に見られるシグナルの位置ですが、これについて『全国大学入試問題正解』は明らかな誤答を掲載しています。シグナルを示す肝心の太字が欠けています。10分で1マス分のだけ複製が進む点は正しいのですが、複製開始後10~20分の間に取り込まれたシグナルを示す、真ん中の両隣のマスにあるDNA鎖を太線で示さないといけません。編集時の些細なミスが原因だったのでしょうが、誉められたことではありません。

Ⅴ.

《解答あるところ問題あり》

  動物の行動に関する問題でした。前の2つの大問と比較すると労力は必要ありません。
  こちらは社会性昆虫の人気者、ミツバチによる情報伝達システムから題材を取ってきています。まずは恒例の穴埋めが問1、2と連続します。前者は平易なものですが、後者はそうとも言えません。ミツバチのダンス言語についての予備知識だけを頼りに解くよう設えられていたら折り紙付きの超絶知識として語り継がれるでしょう。地面と垂直な巣箱だと、ミツバチは仲間にエサ場を示すとき、壁掛け時計の12時の方向を太陽の位置として、エサ場の方角をそこからのずれとして表します。その方角を指し示すのが、「円形ダンス」で、しきりと頭を向ける方向と一致します。図表のヒントなしにここまで食い下がれれば十分健闘できたと言えます。ダンス回数が何回であればエサ場までの距離がどれだけかを問うのはもはや反則の領域です。この関係はきれいな反比例の曲線を描くので、たしかに標準的な図説や資料集にはこれ見よがしに掲載されています。しかし、そんなことが分かるかといって投げ出してしまってはいけません。最後に近づいたときほど慌ててしまう受験生にも救いの手は差し伸べられます。本文にはずらりと4つの図が並べられ、惜しげもなくヒントを示してくれています。さあ、これさえ越えればあとは下り坂になります。選択問題も記述問題もリード文に素直に従えば悩むことはありません。

《おや?》

  しかし問題自体でないところで悩ませどころが控えています。それは先程から度々登場する問題集の解答です。問3は、ミツバチは仲間のダンス言語だけを頼りにエサ場にたどり着けるかを推察する問題です。この実験では、視覚や嗅覚の影響を取り除く仕掛けがしてあります。この条件で、仲間のダンスをミツバチの多くが正しくエサ場に至ることができなかった理由を25字以内で答えます。当然、エサ場の特定には視覚や嗅覚による情報が必要だから、というのが正道でしょう。件の問題集でも、本問の解説に同様の内容を記しています。それがどうした手違いからか、肝心の解答にはまるで横道に逸れた文を載せています。疑わしいところがあるとはいえ、人様の出版物をつまみ食いしてばかりでは気が引けます。興味のある方はご購入の上ご確認下さい、と宣伝に回って罪亡ぼしです。

最後に

お楽しみいただけましたでしょうか。今回も、相変わらずの駄文に最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。今後とも、受験生の皆さんだけでなく生物に興味のある方全員に喜んで頂けるよう、日々励んで参ります。ぜひ温かい声援を引き続きお願いいたします。ではまたの機会にお会いしましょう。天津丸でした。

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