医大・医学部受験プロ家庭教師 入試解剖

日本医科大学の傾向と対策

生物(2012年)の傾向と対策

こんにちは、リーダーズブレインで生物を担当している講師の天津丸です。今回は僭越ながら2012年・日本医科大学の生物入試問題を解剖してしまいます。

総評

  まずは制限時間とボリュームです。2科目で120分が与えられています。ですから生物の解答に費やせる時間は60分と見込みます。大問は3本で、植物を題材にしていても本質的には医学を離れず、人間の生理と関連する要素と絡めている点が気になります。
  難易度は他の私立医大と比較すると知識的な要求度は低いと言えます。長い記述もなく、時間的にも潤沢な余裕があるといって良いほどです。合否決定は高得点の争いになるでしょうから、小さなミスも命取りになります。ですから、基本知識と定石問題を数多くこなしてきた受験生には有利です。駿台文庫の理系標準問題集生物や数研出版の生物Ⅰ・Ⅱ重要問題集を2、3回反復するなどの対策が良策かと思われます。後者は生物学習者にとっては定番中の定番であり、重問または生重問と呼ばれ親しまれています。
  では詳しく見て参りましょう

入試解剖

[Ⅰ]

《はなのいろはうつりにけりないたずらに》

  いろいろな遺伝、遺伝子の相互作用の分野からの出題でした。
  複数の遺伝子によってひとつの形質が決定されるタイプの遺伝に関する問題は少なからずの受験生が毛嫌いするところです。各遺伝子の役割が掴みにくいことから、分離比を示す数字の大行列に目を回してしまいます。本問で登場したのは補足遺伝子であり、スイートピーの花色決定で有名です。おそらく本問もスイートピーがモデルになっているでしょう。このタイプでは表現型は2つで、いわゆるF1をかけ合わせると優勢形質と劣性形質が9:7の比で分離します。しかしそれだけでは芸がないということで抑制遺伝子も問題に組み入れています
  この手の、表現型の分離比から交雑に用いた個体の遺伝子型を推察する問題は、とにかく勘を働かせることです。まず遺伝子型を仮定してみてから、実験事実と矛盾しないことを確かめていきます。もし勘が外れたら、別のケースを考えれば良いだけです。確信を得てから解き始めたいという潔癖は捨て、まずは手を動かすことです。頭だけでジリジリ考えていても余計に時間がかかるだけです。
  内容に立ち入ってみましょう。ああでもない、こうでもないと悩むまでもなく、各純系個体の遺伝子型は定まります。以下、[ ]を付けたものは表現型を、そうでないものは遺伝子型を表すこととします。AとBを発色遺伝子、Cを脱色遺伝子とすると純系PはAABBcc、純系QはaabbCC、純系RはAAbbcc、純系SはaaBBccとなります。なお、最後の二つは逆でも差し支えありません。いずれで解いても結果は同じです。ここで用いたC遺伝子が、問題にある変異型酵素をコードするものです。C遺伝子が優性形質を示すのも、実際の酵素タンパク質をコードしているからです。ここまでが問1~3に必要な情報です。
  問4は問題文の読み取りが厄介です。筆者もしばしどんぐりまなこで問題文にかぶり付きました。腑に落ちないところがどこなのかも分かりません。しかし落ち着いて考えてみると躓きが生じているのは「酵素A,酵素Bともに変異型のみをつくる個体」という指示文のひとくだりでありました。分かりにくいスルーパスです。キラーパスと呼ばれる難しいパスほど得点に直結するのは間違いありませんから、ここは丁寧にトラップしましょう。冷静に考えればこの個体の正体がaabbだったわけです。結果的にはここで出てくる交配7が検定交雑であったと分かれば実にこちらのしめたものです。
  迎えた問4が[Ⅰ]の山場です。とはいえ定番の組換え価の算出問題に変わりなく、冒頭にのべた通り定石を打っていけば解決できます。交配6のF1はAaBbですから、考え得る配偶子はAB、Ab、aB、abの4タイプです。交配7は検定交雑と同値ですから、表現型の比がそのまま配偶子の比となります。[AB]が赤花ですから、その由来は配偶子ABです。この配偶子が全体の1/20という少数派を占めるわけです。少数派がすなわち組替え遺伝子です。このとき多数派配偶子はAbとaBとなり、残るabがABとともに組替え体の由来となります。配偶子abの割合は配偶子ABのものと等しいので1/20です。問4の(i)と(ii)では解ける順番に逆転が起こります。(i)の答の組換え価は全遺伝子中の組換え遺伝子の割合ですから、求める値は(1/20+1/20)×100=10(%)となります。折角なので全問答えてしまいましょう。(iii)は組換え遺伝子をホモに持つ確率を求めますが、積の法則より1/20×1/20=1/400となります。最後の(iv)では今更ながら組換えが起こらない場合の表現型分離比を尋ねてきます。配偶子の比はAB:Ab:aB:ab=1:1:1:1ですから赤花となる[AB]は全体の1/4です。
  始めの大問は案外に良心的でした。

[Ⅱ]

《好気呼吸の好機を逃すな》

代謝と細胞小器官に関する問題でした。知識的な要求は本年度の大問の中では一番です。ただ問題数が少ない分、時間の消費は抑えられます。
  まずは細胞分画法により好気呼吸の大家ミトコンドリアをかき集めます。高速の円心分離にかけるほど小さな器官を分離出来ますので、速度を上げる度に核、葉緑体、ミトコンドリア、リボソームという順序で沈降し、最後まで姿を見せないのが細胞質基質の酵素たちですので、問2に役立てて下さい。目的となるミトコンドリア懸濁液にたっぷり酸素を通じてから、その消費の過程を追ったのがここでの主役となる実験です。
  問1だけは取って付けたような知識問題で、アンモニアを尿素に変える肝臓を答えさせます。活発なミトコンドリアを得るのに、つねに盛んな活動をしている肝臓を材料に使うのは理にかなっていますし、柔らかい組織なので破砕も容易です。
  問3は注意を要する問題です。ミトコンドリアの酸素消費に結び付く物質を選択させます。呼吸経路の根本理解を突いており、選択問題といえど馬鹿には出来ません。好気呼吸による酸素の消費は電子伝達系にとってのe-受容体のほかに、呼吸の過程で生じる還元物質であるHやH+を無害なH2Oに変換する守り神の意味合いもあります。さもなければ、細胞はH+によって酸味の利いたマリネになるか、パンパンに膨らんだH2の泡だらけになるかしてしまいます。また、ミトコンドリアにおける好気呼吸の基質も問題です。同じ好気呼吸の一過程である解糖系はミトコンドリアの守備範囲ではなく細胞質の担当です。したがってミトコンドリアはグルコースを直接呼吸基質として利用できません。ミトコンドリアが利用できるのはピルビン酸以下、クエン酸回路の代謝物質です。また、エタノールや乳酸は嫌気呼吸の最終代謝産物ですから、体外に排出されるか呼吸とは別の経路で分解されるかします。
  ではどのような仕組みでH+がATP生産に関与しているかを試験するのが問4です。大まかに話すと、ミトコンドリアの内膜にあるまるでパイプのような姿をしたATPアーゼの真ん中にH+を流し込むエネルギーを利用し、ADP分子にリン酸を付加することでATPを得ます。H+を溜め込むのがミトコンドリア内外膜の中間で、それをマトリクス側に流し入れます。ATP分子は内膜の内側でできます。このようなH+流入とATP生産の同時並行の関係を共役と言います。本問のATP生産阻害剤は脱共役剤と呼ばれるものです。同年度の慶医にも登場したジニトロフェノールが有名です。この種の阻害剤は読んで字の如く、共役を破壊します。つまり、ATPアーゼを通過するべきH+を意味のないトンネルから脱走させることでATP生産を阻害します。とはいえ無駄遣いされているH+の分量だけ酸素は食い潰されるのでミトコンドリアには嫌な仕打ちです。詳しくは2012年・慶医のコラムも参照してください。

[Ⅲ]

《遺伝子操作が演出するお色直し》

  遺伝情報の発現、遺伝子組換え技術を中心に据えた多国籍料理風の問題でした。本問は他と比べて差が出来やすかったはずです。
  何にもましてポイントとなるのはプロモーターです。聞えとしては独立した一個人を指すようですが、そうではありません。あくまでDNA塩基配列の一部分であり、人為的な操作なくして切り離されることはまずありません。プロモーターの役割は、mRNAポリメラーゼ(合成酵素)を招き入れ、転写を開始させることです。プロモーターとその付近のDNA配列は細胞内の状況を読み取る能力を持っているので、必要に応じて転写の調節を行うことができます。それらにはオペレーターや調節遺伝子など各々名前がつけられていますが、本問では標的にされていませんのでご安心下さい。必要な予備知識は、プロモーターが転写開始能力を持つか否かは組織の別で決まるということです。
  問1~3は本問の主題から外れますのでほかの機会に回すとして、ようやく問4から佳境に入ってきます。原核生物と真核生物の翻訳過程の違いが問題とされます。解答の要点は真核生物のリボソームが終止コドンを合図にmRNAから離れて翻訳を中止してしまうことです。確かに、一塩基置換で終止コドンが現れると即座に翻訳は止まってしまいます。ですが転写されるmRNAに終止コドンが存在するからには、mRNAポリメラーゼがDNAから離れてしてしまうことはないと結論付けられます。
  さてここで本問に投入された各選手のプロフィールを見てみましょう。是非、問題文と照らし合わせながら読み進めて下さい。納得が深まるはずです。

1. プロモーターA: 上皮幹細胞のみで、連結したあらゆる遺伝子を転写する
2. 遺伝子aなど多数: ただのチョイ役なので丁重に立ち入りお断り(無視!)
3. プロモーターB: 連結した遺伝子をどこでも発現できる万能選手
4. 配列Pから遺伝子gまでのサンドイッチ: 普通ならマウスの身体で赤く光る
5. タンパク質Eと薬剤Dのコンビ: 小腸上皮幹細胞で上のサンドイッチ配列を見つけてDNAを切り取るので、出す光は緑色、効果は末代まで

  DNA自体が変化すると、細胞分裂したところで変化した遺伝情報は1ヵ月でも1世紀でも引き継がれる点に注意しなくてはなりません。ですから、最後に挙げたコンビこそ本問のボスキャラであり、またもう一つ、細胞が息絶える5~7日というリミットも大きなカギとなります。実はその読み取りをさせているのが問5であり、続く問6・7はおまけに過ぎません。小腸上皮と関係ない組織は流派がまったく異なるので緑色光を発しようがありません。薬剤D投与後、3日目だと投与前に幹細胞から分裂し上皮細胞として分化した赤く光る細胞がまだ生き残っていますが、1ヵ月経てばもう残っておらず、すっかり緑色の細胞に入れ替わります。
  柄にもなく批評家ぶった話し方をしてしまいますが、この大問の問題群とくに後半は、リード文に誤解を招く要素がなくテーマも明確なので他校志望者にとっても格好の演習問題になると思います。難易度も標準的です。前述の生重問などにも載せられないかしらと夢想する筆者です。

最後に

  お楽しみいただけましたでしょうか。今回も、相変わらずの駄文に最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。今後とも、受験生の皆さんだけでなく生物に興味のある方全員に喜んで頂けるよう、日々工夫に励んで参ります。ぜひ温かい声援を引き続きお願いいたします。ではまたの機会にお会いしましょう。天津丸でした。

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