医大・医学部受験プロ家庭教師 入試解剖

東京医科歯科大学医学部の傾向と対策

生物(2012年)の傾向と対策

こんにちは、早稲田家庭教育センター講師・天津丸です。
今回は東京医科歯科大学医学部(以下、東医歯大)、2012年度・生物の分析です。

総評

理科は物理・化学・生物からの選択式、120分で2科目を解くことは一流医大では暗黙の了解たるシステムです。これを踏まえ、東医歯大の生物出題傾向は、私大と国公立大それぞれの医学部の丁度中間を突いているものだと認識していてよろしいでしょう。つまりそれは、私大のように細かい知識を求める要素と国公立のように考察し簡潔に文章で表す力をどちらもほどほどに求めます。ですから、生物受験者の最大公約数が出題の標的となる結果、おのずと競争が激しくなってしまいます。このため、軽はずみなミスを避けるよう、問題把握にも記述にも日頃から注意力を高めておいてください。とくに、難関大学には付き物の長いリード文を読むうえで、読み落としや誤読・誤解は禁物です。また、精読するほどご褒美をゲットできる確率が高まります。ボーナスを稼ぐには、文章を正確に読み取り、誘導問題の伏線を嗅ぎ当てることです。もちろん、速読能力だって必要です。
あくまで個人的な感想ですが、難易度からいえば、本年は平易な問題が多かったという印象を受けます。したがって高得点での争いが繰り広げられたことと思います。勝負を分けたのも、上記の内容を踏まえたとおりに例年の出題傾向にマッチした対策を立ててきたかどうかにかかっていたことでしょう。
では、少し細かく見ていきましょう。

入試問題解剖

《第1問》
標準~やや易というレベルとしておきます。考察・記述に自信のある方にはサービス問題でした。ポイントは問1のg)とh)でした。
問2と問3も前半に比べれば発展的ですが、落とせません。とくに問2はリード文中に大ヒントがありますから、これを不正解したならば大いに反省するのが今後のためです。ここで扱われている技術はノーザン・ハイブリダイゼーション(ノーザン・ブロッティングもほぼ同義に扱われることがあります)というものです。大学受験に使う問題ですから、もちろんここではその原理を説明するための簡略化版的モデルが扱われています。平たく説明すれば、手順は以下の通りです。
まず、目的のRNAにたいし、それと相補的な配列をもつヌクレオチド鎖(これには紫外線を当てると紫色に輝くという派手な標識を施しています)を用意して、両者を結合(=ハイブリッド、異なる二者の統合の意)させます。それから紫外線を当て、その試料が紫色に光れば、目的のRNA鎖が検出できるというわけです。この技術はバイオテクノロジーにおいて非常に有用です。遺伝子組み換え体に目的のDNA鎖(=保管庫内の設計図)が導入されたと確認できた次の段階で、それが実際にmRNA(=現場へ持ち出せる設計図)に転写されたかを調べるときに活躍します。もしDNAがうまく挿入できても、転写されなければ遺伝子の発現は起こりません。補足を述べますと、DNAの検出にはサザンの名が冠せられます。また、mRNAから翻訳されるタンパク質(=設計図に描かれた製品)は他の分子とハイブリッドを形成しないのが常識ですが、一部で上記の例と同じ手法を用いるウェスタン・ブロッティングという検出法があります。じつはこの語呂合わせは、これらのさきがけとなったDNA特定法を開発したエドウィン・サザン(Southern)博士の名前にあやかったものです。まとめると、サザン(DNA)ノーザン(RNA)ウェスタン(タンパク質)。たとえサザン博士の方法から後れて世に出たからといえども、RNAやタンパク質を特定する方法を開発することだって並大抵のことではありません。それを茶目っ気たっぷりの駄洒落で命名してしまうなんて、その大胆さには肝をつぶされてしまいます。
さて、注目の問1です。2012年度・順天堂のコラムで申し上げましたが、本問で取り上げられているエクジステロイド(エクジソン)が、よりによって同年度しかもあろうことかお隣さん同士の大学で、仲良く出題されています。奇妙な合致です。さては…、などと邪推したところで我々が立ち入る領域ではありません。時間の無駄だと割り切って、大人しく学習に取り組みましょう。
一口にホルモンと言っても、大きく2つに別れることを皆さんはご存知でしょうか。そうです、ペプチドホルモンステロイドホルモンが正解です。では問いますが、こんどはそれらの違いを挙げてください。はい、ではこちらのあなた。前者はペプチド鎖、後者は脂質から合成されるから、「由来物質」と言いたいわけですね。たしかに誤りはありません。今度は、あちらの方。ステロイドホルモンは生殖腺か副腎皮質のみ、ペプチドホルモンはその他様々なところから分泌される点に注目すれば、「分泌器官」、ですか。そちらも正解です。では私から、少しユニークな着眼点で申し上げます。ステロイドホルモンが生命活動を活発にさせる方向へと働きかけることに言及すれば、「基本性質」でも許されそうです。
しかし本問で注目しておくのは、「作用機序」です。聞き慣れない方もいるはずですが、この用語は、物質が作用を起こすまでに引き続いて起こる反応の順序という意味のありがたい学術用語です。皆さんも機会があればこのアイテムを使ってみてください。
まとめるとどういうことか、を発表しましょう。両ホルモンの大きな違いは細胞膜の透過性です。ステロイドホルモン(およびその複合体)はコレステロールの名でおなじみの脂質由来であるため脂質二重膜からなる細胞膜との親和性があり、その障壁を通過できます。一方のペプチドホルモンは親水性アミノ酸残基が邪魔して、膜を通過出来ません。
ペプチドホルモンは仕方がないので、膜表面にある受容体に情報を託します。譬たとえるなら、自分では行き着けない外国まで願いを届けるため、国境線上の郵便局から思いを込めた手紙を送る乙女のような存在です。少女は郵便局の窓口に立ち、そっと局員の背中を見守るばかりです。
——ついに来てしまいました、比喩濫用タイム。ここでは、まったく初心者の方が難解な分野に足を踏み入れる抵抗を和らげるところですから、より深く正確に知りたい方には、調べたい物質についてできるだけ細かく理解していくことを奨めます。生物学にはつねに例外が付きまとう学問ですから——
話は戻って、令嬢ペプチドから託された手紙の運命は、国境線を越えてしまえば郵便局に勤める配達人さん(=セカンドメッセンジャー)の仕事に委ねられます。か弱き乙女が国境をまたいで連絡するには、配達人さんの働きが欠かせません。この仕事を担当する第一人者が、c(サイクリック)AMPさんで、じつにワールドワイドな活躍をされています。この職人さんの妙技については、また別の機会にお話しできることを望んでいます。
それとは対照的に、もっと逞しく出来上がっているのがステロイドホルモン。こちらは、ホルモン界のアマゾネスとあだ名される日も近いというもっぱらの噂です。どれくらいアマゾネッシブ(完全な造語)かというと、国境(=細胞膜)をまたぐくらい朝飯前、この後も矢継ぎ早にスリリングなドラマを演じてくれます。まずは侵入先の国内では身の安全が危ぶまれます。彼女は首尾よく侵入国在住の仲間(=タンパク質の一種)に擦り寄り(これにより複合体を形成)、違法入国者への厳しい監視から身をかわします。しかも彼女の作戦は練り練られたもので、取り入った仲間とは、超大物貴婦人(=分子シャペロン、シャペロンとは筆者の意訳によると『上流階級の社交界に出入りするときに一緒に行ってもらう人』を表す仏語、でもこの語は入試には問われないでしょう)だったのです。こちらの方、何を隠そう国会(=細胞の中枢たる)への出入りをも許されている特別な人物です。彼女らは優雅に談笑しながら国会の玄関をくぐって(=核移行)いくのです。こうしてVIPな案内を伴って、ステロイド嬢は細胞共和国の中核に潜り込みました。国会からは日々、臨機応変な対応が望まれる不安定な社会情勢(=刻々と変化する体内環境)にたいし、つねに的確な指令(=mRNAへの転写)が下されます。アマゾネスと貴婦人の名物コンビは、大胆にもこの緊急指令リストのあいだに、国境外から持参した手紙をうまく差し込んでしまうのです。指令書はすみやかに関係各所へと通達され(=転写の調節)、ある工場をフル稼働させ、別の企業には休止命令を下します(=恒常性の維持)。かくしてステロイド嬢はまんまとミッションを完遂するわけです。それも、危険を冒して侵入した出先で、派遣元(=ホルモン分泌を促す中枢)の思惑を叶えるために。
長すぎる説明。お叱りの前に、筆者自らの拙さをお詫びしいたします。ゴルゴ13を読み過ぎて感化されてしまいました。

《第2問》
取り直してまいりましょう。いきなり現れたのが、アルツハイマー病なる語です。こんな強敵が先頭を飾る、迫力のあるリード文です。続いて、コリンエステラーゼ、βアミロイドなど、強そうなキャラが惜し気もなく投下されます。難しそうな印象が芽生えた瞬間気後れしてしまいそうですがそこは我慢のしどころです。リード文を読んだだけで諦めてしまうのは時期尚早です。問題の方まで難しく誂えられていると決まったわけではありません。
実際、第2問がもっとも答えやすかったと感じる解答者も少なくありません。問1で少々細かい知識が問われましたが、とくに私立医大併願者には常識的といえるレベルで済むでしょう。問2は、研究者としての資質を問う良問でした。生物個体においては、完全に一致する存在などありえません。一卵性双生児やクローン動物といえども、生活を営む環境を完全に同調させることは物理的に言って不可能だからです。したがって、生物を材料とする実験では、収集したデータにしかるべき補正を加える必然性が生じます。問題文では個体差について補正を行うよう示されています。おそらく、正解として採用された例は複数であったと思われます。正誤の基準は、ブロックAとBそれぞれの接触時間の比をデータ化できたかどうかにあるでしょう。たとえば、①合計接触時間を100として各ブロックの接触時間を表す、②動かしていない方のブロックAを1としてブロックBの接触時間の相対比を表す、③反対に動かしたブロックBを1とする、など。とにかく、統計的手法というものは条件を複雑にする要因を増やせば増やすほど、議論が出来なくなってしまいます。ですからこの問題でも、なるべくシンプルな補正と、実験者が最もこだわるポイントを示すことが求められたのだと考えられます。
章の先頭で申し上げた「難しい用語」の解説は、別コラムで語らせて下さい。ボリュームも締め切りも現時点で大幅にオーバーしているという大人の事情は口が裂けても言えません。

《第3問》
こちらはさらに読み込ませ、何と丸々2頁に渡る長いリード文です。しかし予想外に読みやすいので、かえって腰が引けます。知っていることを長々と述べたてられている感覚を覚えてくる方も少なくないかもしれません。光合成をキーにして進んでいくこの文章ですが、大まかな流れは以下の通りです。ツカミは地球生誕から悠久の時を経て光合成をとらえる演出で、細胞内共生説が登場します。続いて、明反応・暗反応とよばれる基本的な(C型緑色植物の)光合成から、C4植物の光合成へと展開していきます。ここまでスムーズな流れです。そして最後に3行だけ陽樹/陰樹が話題に登ります。取って付けたところが丸出しのチカラワザは非常に人間的で、親近感が湧きますね。読み終えてみると、山場らしいところも真新しい知識に言及しているところもありません。唯一、最後の急展開だけが何とも言えない余韻を残します。さてはリード文ではなく設問の方で大掛かりなしかけがくまれているのでしょうか。ラスボスにふさわしいモンスターが爪を研いで控えているに違いありません。高鳴る鼓動を抑えつつ、勇者はページをめくります。そこで対峙する相手はいかに。おそるおそる覗いてみると現れたのは、嘘かと思えるほど普通の敵キャラです。しかも、慌てるほどの大群をなしているわけではありません。おそらく、敵キャラ部隊も長いリード文に幅を取られてしまったのでしょう。あの、きついのですが、と言っているようですが、背に腹は代えられません。耳栓のご用意をしつつ、可哀想な気持ちがこみ上げてきます。だんだん中身を見てみても、問2で代謝の過程を図示させるという変化球が織りこまれてきますが、リード文に書いてある通りのことを図で再現すれば取り立てて苦しむものではありません。他の問題群も平凡といってよいものばかりです。前述の陽性/陰性植物は、問題のほうに幕が変わってもやはり悲しきトッピング要員です。背負った宿命には抗えません。思わず溜息が洩れます。試験場では皆黙って問題を解くのでしょうが、多くの受験生が受験生活を振り返りながら心の中で「問題作りって大変なんだな」と呟いたはずです。誰もが黙々と第3問を解き進めます。

それからやがて試験官が静かに「やめ」と合図を発します。それは不思議な厳かさを帯びて試験場に響きます。続く文言が意図する指示のもと、期待と不安を乗せた答案が、順次、お互い見ず知らず同士の受験生の手を渡り試験官に回収されていきます。何だか、小津安二郎の映画を見ているような心境になります。

いかがでしたでしょうか。皆さんもお気付きのことでしょう。最後の下りはもはや入試解剖でもなんでもないことを。しかし私はこんなことくらいにへこたれず、皆さんに興味深い記事をお届け出来るよう日夜努力を重ねてまいります。ですから今後とも、ぜひ温かい声援をお願いします。自分で何を言っているのかさっぱり解らなくなってきました。そろそろ退散すべき頃合いのようです。礼。天津丸でした。

TOP

創業以来、
最高峰のプロ教師陣を輩出

TRADITION
SINCE 1985

1985年法人設立以来、プロ家庭教師のクオリティーにこだわり続け、現役プロ教師の中でもトッププロと呼ばれる真の実力を兼ね備えた合格実績豊富な家庭教師のプロだけをご紹介しています。
特に中学受験·大学受験·医学部受験専門のプロ教師のクオリティーに自信があります。