医大・医学部受験プロ家庭教師 入試解剖

筑波大学医学群の傾向と対策

生物(2012年)の傾向と対策

  こんにちは、リーダーズブレインで生物を担当している講師の天津丸です。今回は僭越ながら2012年筑波大学・医学群の生物入試問題を解剖してしまいます。

総評

  全体的に見て、生物Ⅱの割合が高い年度でした。最後の詰めに抜かりがなかった受験生が報われたことでしょう。とはいえ、生物Ⅱといっても、系統分類や世界各地の森林の極相などのいわゆる「マニアックどころ」への侵攻は自粛してくれていますから、まだ取り組み易かったはずです。
  難易度の構成順序もスタンダード路線で、概ね解きやすいものから並んでいます。素直に最初から解き進めていくごとにウォームアップが整っていくというお誂えです。ただ、大問Ⅲの扱いには要領のよさが求められます。見慣れぬタイプの問題を深追いすると予想以上のロスを作ります。大問Ⅲは一読してから解答を後回しにしてしまう、という手順が効率的な流れです。

入試解剖

[Ⅰ]

《その藻はナニ藻類?》

  細胞小器官とその進化に関する問題でした。
  開始直後の大問でよく見かけるリード文のご多分に漏れず淡々と語り始める筑波様です。適語補充で頭のストレッチをさせてくれるとは何とも親切です。注意しておくべきは、原核生物におけるDNAの所在です。核に相当する構造が核様体だと短絡的に考えてはいけません。あくまでも、核様体はDNAが形成する構造物であり、所在とはいえないのです。
  問4も気になります。光合成植物が地球環境に与えた影響に関する論述です。オゾン層の形成による紫外線の遮断が生物の陸上進出に寄与したことは外せませんが、他に大気や海水を酸化状態に転換したことを加えてもよいでしょう。海水中の鉄イオンが酸化鉄となって沈殿し、年月を経て縞状鉄鉱層を作り出したということが、お手元の生物資料集にも載っているはずです。
  大問Ⅰの締めくくりには、小気味良い演出が光ります。簡単には先に行かせませんよとでも言いたげに、細かい暗記事項を突いてくるのが問6です。生物の分類に関する各論的な問題で、列記した生物種がどのグループに属するかを問います。酵母菌が細菌類でなく真核生物である菌界にグループ分けされることはもはや受験生物界の約束ごとに数えられるのですが、酵母菌はすでに問3で役目を終えられています。再度の出演はありませんから、我々も難を逃れました。しかし揃いもそろった10種はまさに十人十色、バラエティの限りを尽くしてみちゃいましたなどと相手に可愛子ぶられたとしてもこちらの身にとれば困り者です。とくに厄介なのが、藻の類いです。陸上植物は「~ゴケ」ならコケ類だとか、「~マツ」なら裸子植物だとか、名前から予想をつけることが比較的簡単にできます。しかし水生植物(しかも植物ですらない物も多いから手が付けられません)で「~モ」といっても、もっとも原始的な原核生物からはじまり、果ては被子植物のような高等植物までをもひっくるめてしまいます。こういったものすべてを気力一辺倒で頭に叩き込むのも芸がありません。できれば労力は最小限で済ませたいところです。ポイントは植物プランクトン系の「~モ」です。なかでも原核生物としての大御所、ラン藻さえ押さえていればそれだけで得点力にだいぶ差が出ます。その御三家ともいえるのが、ユレモアオコ(~モではありませんが)、ネンジュモの3つです。アオコは湖沼の富栄養化、ネンジュモは窒素固定でも登場する人気者です。少々ランクは下がりますが、アナベナ、スイゼンジノリも教科書・資料集でよく見かけるラン藻です。これだけ言うからにはラン藻を押さえるべきそのココロもよくお教えしましょう。ここまで読めばお気付きの方もいるでしょうが、種名が絡む問題というのは本問のように原核生物と真核生物のいずれかを問うものが大多数であるからなのです。なので「モ学」初習者はラン藻の代表選手を覚えることを手始めとすることをお勧めします。

[Ⅱ]

《ガラパゴス島にキツツキ》

  進化論と種の分化に関する問題でした。
  適語補充も少々程度が上がりました。【 1 】もきちんと正しい生物学用語の「変異」を用いないといけません。
  問3の実験計画の記述問題は敬遠された解答者も多かったのではないかと思われます。どうしても、計画の不備を突かれて減点されることに気後れを感じてしまうという心理もよくわかります。しかしそんな弱気も今日で卒業しましょう。実験計画問題こそ裁量が緩やかだと捉えることです。とくに、実験者がコントロールできない多数の環境要因を伴う野外観察を中心としたものは尚更です。手元の資料にある某予備校が編集した模範解答には、調査範囲内に自生するハマビシの果実数とトゲの長さを調べてから一定の期間をおき、再び同様の調査をして果実の減少数とトゲの長さの関係性を見ることが述べられていました。これで充分得点は期待できると予想されますし、かと言って必ずしもこの方法でなくても正解は得られます。そんなものです。まずは手短にそんなものかと思っていただくのが早道です。ですが折角読んでもらうからには、きちんと理由は巻末で申しますのでご安心下さい。
  適語補充を無難にこなした後、少し首をかしげてしまうのが問2です。とくに小集団で強い影響を及ぼす遺伝子頻度の変化が問われています。正解は遺伝的浮動ですが、もうひとつ言葉が浮かびます。びん首効果ではいけないのでしょうか。本番での採点基準は分かりかねますが、厳密にいえば遺伝的浮動のみが正解となります。びん首効果は遺伝子頻度の変化そのものでなく、変化を強める効果を指します。
  問4は見出しにある問題です。唐突にもガラパゴス島にキツツキがやって来ました。小鳥のフィンチ君と共存は出来るでしょうか。もし種間競争が起こった場合は、最悪の場合どちらかが絶滅するに至ります。すみわけ、食いわけが起これば共存は叶いますが、キツツキの移住前と比較すれば、生態系のバランスが変化していることは間違いありません。人為的な外来生物の持ち込みが世界各地で問題になっているように、慎重さを欠く生物管理は環境倫理の観点から許されません。日本で取り沙汰される話題ではオオクチバス(通称ブラックバス)やアライグマが海外から持ち込まれた厄介者として扱われ我々の被害者意識を煽りますが、日本から海外へ移出していったコイやクズ(つる性植物)が他国の生態系にダメージを与えていることを忘れてはなりません。

[Ⅲ]

《コイの筋肉美》

  この問題が合否を決める最大の関門になったことは筆者の個人的見解にとどまらないことと予想します。目新しい計算問題で、手を付け間違えるとこんがらがってしまいます。しかし実際には、解いてみた後で振り返ってみると意外と簡単だったことに気付くかもしれないほどです。出題者側としては入念に正解への布石を打っていたつもりなのでしょうが、解く側の焦りについては計算外だったものと思われます。
  まずは適語補充です。カルシウムイオンを放出して筋組織の収縮を促す筋小胞体はやや程度が上がりますが、どれも自信を持って正解しておきたいものです。カルシウムイオンは、ミオシン分子が相方のアクチン分子を抱き寄せようとうずうずしている両の手をピタリと制しているトロポミオシンなる見張り役の立体構造を変化させます。これにより制約を解かれたミオシン分子は好物のATPをここぞとばかり頬張り、元気に活動を始めます。その働きでアクチンフィラメントが手繰り寄せられて筋の収縮が起こります。
  さて出ますは計算問題、筋節の最大・最小の長さを求めます。蓋を開けてれば単に[情報2]において与えられている式に代入するだけです。コイの横幅より、a=6(cm)は変化しません。遅筋ではr=60(cm)、速筋ではr=12(cm)をそれぞれ代入し、外側の筋節の長さを最大値、内側のものを最小値とします。単純なことですが、文章と図で3ページを占める長々した前振りから的確に情報を拾い集めることは容易でありません。国語力に近いノウハウも必要です。
  計算値を見てみると遅筋と速筋の収縮範囲はそれぞれ1.82㎛~1.99㎛と1.44㎛~2.40㎛です。図1に示されたグラフと照らし合わせると、遅筋においては収縮力の相対値がピークとなる筋節の長さの範囲内で運動していることがよく分かります。遅筋はエネルギー効率の良い運動をしていると解釈出来ます。また、収縮範囲で考えると速筋の方が数倍大きくなっています。しかも、1回の収縮にかける時間は遅筋で250ミリ秒、速筋で20ミリ秒ですから収縮速度にはいやまして大きな差が生まれます。ともに弛緩時の筋長は1.92㎛なので収縮速度の式は以下の通りです。

遅筋:{(1.92−1.82)÷1.92}(㎛)÷250(ミリ秒)≒0.0002(㎛/ミリ秒)≪0.005(㎛/ミリ秒)
速筋:{(1.92−1.44)÷1.92}(㎛)÷20(ミリ秒)=0.0125(㎛/ミリ秒)≫0.005(㎛/ミリ秒)

  通常時の運動は遅筋の最大能力を発揮していないこと、速筋の収縮速度は遅筋の最大能力を大幅に上回ることがわかります。もっとも、遅筋の計算は本問の解説としては蛇足です。速度・時間・距離の概念さえ整っていればかなりシンプルな論理に帰着できたことがお分かりでしょうか。

[Ⅳ]

《ピカピカ光る大腸菌》

  プラスミドを用いた大腸菌遺伝子組み替え技術に関する問題です。
  緑色蛍光タンパク質、通称GFPも、発見者でいらっしゃる下村脩博士のノーベル化学賞受賞後めっきり輝きを増してきました。実際のバイオテクノロジー産業ではGFP遺伝子の代わりに付加価値のあるタンパク質(ポリペプチド)をコードする遺伝子を組み込んで、大腸菌に有用物質を合成してもらいます。本問は、その骨子を紐解くことが目的とされています。
  遺伝情報が生体内において形質や反応として浮かび上がってくるまでには、セントラルドグマと呼ばれる一連の方向性があることについてはご存知の方が大多数でしょう。しかしその仕組みが滞りなく進むために所々で設けられている調節システムにまで精通する段取りとなると、専門家も頭を悩ましてしまいます。大問のⅢで少しばかり盛り上がり過ぎてしまいましたから、手短に参りましょう。
  何はあれ、重要なのは役回りです。理解するときは生体内の実働部隊であるタンパク質、タンパク質を送り出す遺伝子DNAに分けて整理します。また、複製や転写に係わるDNAには上流・下流の区別がありますから、遺伝子の位置も重要です。本問で鍵を握るのは間違いなくAraCタンパク質です。このタンパク質自体はGFP遺伝子の転写抑制剤です。通常の環境だとこのタンパク質はどんどんと生産されるので、組み込んだGFPは抑制効果を受けるため生産されません。しかし、アラビノースの存在下であれば、AraCタンパク質はいくら生産されたところでアラビノースに無効化されてしまいます。そのためGFP合成経路のロックは解除され、目的の産物GFPが得られます。AraCタンパク質がロックをかける鍵だとすればX領域というのがちょうど鍵穴にあたり、アラビノースが鍵の凹凸を埋めて形を変えてしまうものになぞらえることが出来ます。
  うまくGFPが合成できても、肝心の大腸菌が元気よく活動をしてくれなくては元も子もありません。アンピシリンは大腸菌にとって毒であるというのに、なぜ敢えて培地にアンピシリンを加えようとするのでしょうか。それは、組み替え体である大腸菌だけに活躍してほしいからです。役に立たない大腸菌が混入している分だけGFP合成は目減りしてしまいますし、第一エサ代の無駄です。
  以上を背景に各寒天培地で生活を営む大腸菌をつまびらかにしてみましょう。アンピシリンもアラビノースもない培地Aには組み替え体も非組み替え体もなく雑多な大腸菌が住まっていますが、アラビノースがないせいで組み替え体はせっかくのGFPをロックされたままなので緑色蛍光の発現には至りません。培地Bでは役立たずの非組み替え体こそアンピシリンによって成敗されていますが、培地A同様の理由でGFPは持ち腐れです。培地Cでようやく条件が揃い、晴れて組み替え大腸菌は燦然と輝く舞台を得ます。折角なので拍手してあげましょう。大ちゃん(大腸菌をさしたつもり)もニッコリ愛想を振り撒いてくれるかもしれません。

最後に

《実験デザインこそ科学者の才能》

  お楽しみいただけましたでしょうか。今回も、相変わらずの駄文に最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
  ところで、大問Ⅱで触れた実験計画の話が済んでいませんでした。この種の問題は完全ではなくとも得点を期待できるということの根拠です。真の科学実験は完全なる処理区対照区が必要ですが、現実的にそれは不可能なことです。なぜなら、両区で行う実験は唯一の要素だけが異なるものになっていないといけません。もし、与えるエサを変えたなら他のものは一切変えてはいけません。飼育密度や日照条件はともかく、突き詰めれば時間も場所も試験個体もそうです。同じ時間、同じ場所に同じ個体がいて、しかも異なるエサを摂取しているなど、物理的に不可能なのは明らかです。ですからこの問題を解決するのに組み込まれる概念が再現性というものです。出来るだけ似かよった条件の実験を複数回行うことで、仮説の信憑性を高めようというわけです。たとえばインスリンが引き起こす血糖量の低下を実証する実験などでその効果が理解できます。「インスリン」という同一の分子を用い、年齢や性別を揃えた集団で実験を行うため、原因と結果を結ぶ因果関係は比較的クリアに示すことが出来ます。しかし大問Ⅱで行った実験では、果実に生えたトゲの長短こそ区別していますが、含有成分をはじめその他の要因についてはまったく言及されていません。もしかするとフィンチの好み(嗜好性といいます)は色彩や芳香で決まる可能性もありますから、正確な議論を行うには、トゲの長さだけが嗜好性の決定要素だと断定し得る他の要因との相関を一々調べあげなくてはいけません。仮に先程挙げた模範解答を正解とするなら、果実の減少がフィンチの食餌となった保証はどこにもないどころか、新しい果実が実らないとも限らないわけで、荒探しなどいくらでもできます。野外調査、嗜好性調査はそれこそ1年どころか10年かかってもおかしくありません。極端に言えば、ヒトの好むラーメンを調査するのと同じことです。喩えは安直ですが言いたいことだけでもご理解いただければ幸いです。

ご挨拶

今回も無茶な付き合いを挑みかかり申し訳ありません。今後とも、受験生の皆さんだけでなく生物に興味のある方全員に喜んで頂けるよう、日々励んで参ります。ぜひ温かい声援を引き続きお願いいたします。ではまたの機会にお会いしましょう。天津丸でした。

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