太平洋戦争時、椅子職人の｢芳次郎(よしじろう)｣の仕事は戦況の悪化で減っていく。そうした中で、義父で指物師(箱や机を作る職人)の｢亥之助(いのすけ)｣が亡くなり、息子は召集される――戦時中の普通の人々の暮らしが丁寧に綴(つづ)られている小説。本文では、｢亥之助｣の葬儀の後の様子が淡々と描かれている。時代背景で、やや分かりづらい語句があるが、｢※注｣を活用すれば内容は理解できる。本校の特徴である｢長く紛らわしい選択肢説明｣が連なるとともに、｢人物関係相関図｣の｢書き込み問題｣、｢感想判別｣といった新傾向の出題が待ち構えている。覚悟せよ。以下、いくつかを検討してみる。

[問一]　｢漢字の書きとり｣(全４問)。

二重傍線部①～④の｢カタカナ｣を｢漢字｣に直す。昨年度はとても平易だったが、本年度は本校の標準レベル。だが、本校志望者はやはり｢全問正解｣したい。確認する｡

①  ｢親類縁者(えんじゃ)が夜通しコジンの思い出を語りあう｣＝｢故人｣⇒｢亡くなった人｣のこと｡｢同音異義語｣に要注意｡

②  ｢ゴルフ場がタガヤされて｣＝｢耕(されて)｣⇒これは平易だ。

③  ｢離れる気はモウトウなかった｣＝｢毛頭｣⇒これは難解か？ ｢毛頭～ない｣＝｢毛の先ほども(少しも)～ない｣という慣用表現として覚えておくこと｡

④  ｢ニソクサンモンで買った｣＝｢二束三文｣⇒｢四字熟語｣の定番、｢二足三文｣としないこと｡尚、｢一画ずつていねいに書くこと｣と問題文に記されているので、｢トメ｣｢ハネ｣など､十二分に配慮すること。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　   　　＜時間配分目安：全問で１分強＞[問二]　｢状態説明選択肢｣(５択)。

傍線部(１)｢芳次郎は、自分の腕を眺(なが)めた｣について、｢この場面における芳次郎の説明｣を答える。｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡

特に、本校のように｢選択肢説明｣が長い場合は、なおさらだ｡本問は｢状態説明｣。｢腕を眺めた｣という動作の｢原意｣と結びつかない｢状態｣の説明を｢消去｣する。｢各選択肢の｢文末｣と照合する(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)。確認したい。

(ア)｢恥ずかしく思っている｣

(イ)｢現実に思いを巡(めぐ)らせている｣

(ウ)｢事実をどうにか受けいれようと考えている｣

(エ)｢悲しく思っている｣

(オ)｢不安に思っている｣

どうだろうか？｢腕を眺める｣という動作と｢恥ずかしい｣･｢悲しい｣･｢不安｣といった｢心情｣は結びつかないと判別できなくてはいけない。よって、(イ)(ウ)以外は｢消去｣だ。
次に、｢同一場面｣から｢状況｣を読み解いていく(｢小説｣では｢同一場面の直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)｡直前に｢雨ざらしになる木箱をつくるのに、(亥之助のような)名人の腕は必要ない｣とあり、直後では｢椅子をつくらせたら当代一と言われた(芳次郎の)腕は、箱の中へ入れる土を集めていた｣となっている。つまり、｢腕を眺める｣という動作は、｢木箱｣と直接的に深く関わっていることになる。ここで、再度｢消去｣したい。
(イ)では｢用を足せばよい木箱なのに無意識のうちに丁寧に作ろうとしており｣との説明があるのに対して、(ウ)では一切｢木箱｣のことに触れられていない。であれば、(ウ)は｢消去｣でいい。(イ)は｢同一場面｣をチェックして他の部分の説明も特に誤ってはいないと分かる。したがって、｢答え｣でいい。ここでは｢２段階消去｣だったが、先ずは｢原意消去｣を試みることが鉄則だ。

｢長い選択肢説明｣(本問ではそれぞれ120字ほどもある)を全て照合していたら、混乱するばかりだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分＞

[問四]　｢内容説明記述｣(｢41～50字以内｣指定)。

傍線部(３)｢ゆう子の言いたいこと｣について、｢それはどのような内容か｣を｢四十一字以上五十字以内｣で説明する。｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部(空所部)以外が重要｣という｢重要解法｣)で確認すると、直後に｢(ゆう子の言いたいこと)がわかってきた｣とある｡そして、次段落で｢わかってきたこと｣の内容が説明されていると読み取れるはず。そこでは、｢瓦屋根や針箱や椅子のような日用品でも、職人が丁寧につくったものであるならば愛用され、たとえ戦火で燃えてしまったとしても、使っていた人たちの脳裏にやきついているはずだ……｣といったことが述べられている。
こうした内容を｢過不足なく｣まとめたい。たとえば、｢職人が丁寧につくった日用品ならば愛用され、たとえ焼失してしまっても人々の脳裏にやきついているはずだ｡｣(50字)といった｢答え｣となる。｢文脈｣を丁寧にたどって読み取ることが肝要だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分半＞

[問六]　｢人物関係相関図の書き込み｣(｢横約5.5㎝×縦約11.5㎝の長方形｣の解答欄)。

本文に登場する｢芳次郎｣｢洋一郎｣｢晶子｣｢ゆう子｣｢ふみ｣について、｢婚姻関係にあるときは二重線(＝)、親子関係にあるときは一重線(――)を用いて、本文から読み取れるそれぞれの関係｣を｢図｣で示す。いわゆる｢人物相関図｣の｢書き込み問題｣だ。無論、本校では初出のユニークな問題だ。

｢新大学入試制度｣で求められる｢思考力･判断力･表現力｣を問うものになっている。

さて、先ずはそれぞれの｢人物関係｣を正確に読み取ることだ。｢ゆう子｣は｢芳次郎｣を｢お義父(とう)さん｣、｢ふみ｣を｢お義母(かあ)さん｣と呼び、戦場にいる｢洋一郎｣からの手紙を大切にしており、｢晶子｣は｢満三歳にならぬ｣幼児だ。こうしたことから、｢芳次郎｣と｢ふみ｣は夫婦(婚姻関係)で、その息子｢洋一郎｣(親子関係)の妻が｢ゆう子｣であり(婚姻関係)、二人の娘が｢晶子｣(親子関係)だと分かる。こうした｢関係｣を｢図示｣していくことになる。解答欄最上部右寄りに｢芳次郎＝ふみ｣、その中心から垂直に縦の｢――｣を引き、その下部に｢洋一郎｣、その左横に｢＝ゆう子｣を書き込み、その｢洋一郎＝ゆう子｣の中心から垂直に縦の｢――｣、その下部に｢晶子｣がくるという｢図｣になる。

誰にとっても未知の問題だったに違いない。来年度以降も当然、こうした出題が予想される。だが、出題内容は常に｢初出｣となる。いかに臨機応変に対処できるかが勝負だ。したがって、的確に｢思考｣し、正確に｢判断｣した上で、適切に｢表現｣するということを練習することが求められる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：３分半＞

※尚、[問七]も｢新大学入試制度｣を意識した｢感想判別不適切設問｣となっている。あくまでも｢感想｣なので、それぞれの｢主観的要素｣で｢正誤判別｣はできない。よって、客観的な｢事実関係｣の｢正誤｣のみに絞って｢判別｣することが肝要だと心得よ。

近代科学が久しく避け続けてきた｢自然の生きた姿の記述｣に挑む新しい科学である｢非線形科学｣をひとつの切り口とし、｢より豊かでみずみずしい科学｣の可能性を探り、科学知をも超えた新しい時代の｢知のあり方｣までも思考している。本文では、ものごとを認識する｢主語･述語的統一の様式｣を指摘した上で、｢科学的に知る｣とはどういうことかを論じている。｢科学論｣で難解な語句もある。しかし、｢※注｣の活用も含めて内容を極力理解したい。判別が厄介で実に多様な内容の｢選択肢設問｣が中心となっており、なかなか手強い大問だ。以下、いくつの｢小問｣を考えてみよう。

[問二]　｢内容説明記述｣(｢61～70字以内｣指定)。

傍線部(１)｢モノの同一不変性にもとづいたこのような世界把握の様式｣について、｢それはどのようなものか｣を｢六十一字以上七十字以内｣で説明する。

すぐに｢指示語｣があることに気づく必要がある。｢指示｣する内容を確認したい(｢指示語｣が出たら即開くこと)。前文から、｢このような世界把握の様式｣＝｢そのように見ることで混沌(こんとん)の世界に秩序(ちつじょ)を導入して理解可能になるようにする世界把握の様式｣だと分かる。再び｢指示語｣があるので開く(｢二重｣｢三重｣などの｢指示語｣は全て開くこと)。ただここで注意するのは、｢そのように｣の直前は｢具体例｣なので、その前の｢一般論｣から捉えること。｢そのように見る｣＝｢変転にみちた現象世界を、安定している単一のモノにまとめて認識するように見る｣ことだと読み取れる。これで説明すべき要素はそろった。あとは、｢同一不変性｣｢世界把握｣｢様式｣というキーワードに留意しながら的確にまとめていきたい。たとえば、｢変転にみちた現象世界の多様性を、不変的で安定している同一のモノとしてまとめて認識することで、混沌の世界に秩序を導入して、理解可能にする方法｡｣(70字)といった｢答え｣だ。指定された｢字数｣に応じて、述べるべき要素を取捨選択することが肝要。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：２分半＞

[問三]　｢指示語内容の換言説明選択肢｣(５択)。

傍線部(２)｢この事実｣について、｢それはどのような事実か｣を答える。典型的な｢指示語換言｣だ。最優先で｢指示語｣を開く。直前から、｢この事実｣＝｢個物間の関係が一新され、そこに新鮮な世界像が現れるという事実｣だと分かる。で、｢原意消去｣だ。

各選択肢の｢文末｣を確認する。

(ア)｢世界を構築しているという事実｣

(イ)｢世界を理解することができるという事実｣

(ウ)｢人間は正常に生きていくことができなくなるという事実｣

(エ)｢新しい世界像を描くことができるという事実｣

(オ)｢世界を絶えず更新することができるという事実｣

｢新鮮な世界像が現れるという事実｣なのだから当然、(エ)以外は｢消去｣できるはずだ。｢同一意味段落｣を確認しても(｢論説文｣｢説明文｣では｢同一意味段落｣に｢手がかり･ヒント｣がある)、他の部分の説明にも特に誤りはない。よって、｢答え｣は(エ)になる。何と｢一発消去｣ではないか。畏るべし｢原意消去｣！十分に活用できるように練習を重ねておくこと。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分強＞

[問四]　｢内容説明の具体例判別選択肢｣(５択/複数完全解答)。

傍線部(３)｢統合パターンの二本の柱｣について、｢二本の柱｣とは｢主語的統一｣と｢述語的統一｣のことだが、示されている例で｢『主語的統一による認識』にあたるものをすべて｣答える。先ずは｢主語的統一｣とは何かを捉えたい。

｢同一意味段落｣を確認すると、それは傍線部(１)の｢モノの同一不変性にもとづいたこのような世界把握の様式｣のことだと分かる。要は、[問二]で答えたように、｢現象世界の多様性を、不変的な同一のモノとしてまとめて認識する方法｣だ。各具体例の｢要点｣で｢正誤判別｣する。

(ア)｢蛍(ほたる)とコオロギからリズムを考える｣⇒流石(さすが)に｢生物｣と｢リズム｣は｢同一のモノ｣ではない＝不適切。

(イ)｢スズキとセイゴ、成長とともに名称が変わるが、魚の種類は同じだと考える｣⇒まさに｢同一のモノ｣だ＝適切。

(ウ)｢カラスと渡り鳥から体内時計の機能を考える｣⇒｢鳥類｣と｢体内時計｣を｢同一のモノ｣とは捉えられない＝不適切。

(エ)｢リンゴをくし切りにしても、飾り切りにしても、輪切りにしても、すべてリンゴだと考える｣⇒｢リンゴ｣というまさに｢同一のモノ｣＝適切。

(オ)｢ミミズやヒルなどを観察して、足のない生き物がどのように移動するかを考える｣⇒そもそも｢ミミズやヒル｣は｢足のない生き物｣であって、｢同一のモノとしてまとめててる｣わけではない＝不適切。

本校で頻出の｢具体例判別｣では、｢本文｣で説明されている｢一般論｣をいかに的確に捉えられるかが勝負になると心得よ。尚、本問のように｢小問｣どうしが密接に関連している場合があるので、そうした｢連関｣に着目することも肝要だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：全問で２分弱＞

[問六]　｢換言説明選択肢｣(５択)。

傍線部(５)｢『科学的に知る』｣について、｢それはどのようなことか｣を答える。もちろん、先ずは｢原意消去｣だ。ここは｢換言説明｣なので、最初に｢知る｣の｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣したい。各選択肢の｢文末｣と照合する。

(ア)｢認識すること｣、(イ)｢意味づけること｣、(ウ)｢理解すること｣、(エ)｢証明すること｣、(オ)｢説明すること｣。

｢知る｣と結びつかない(イ)(エ)(オ)は｢消去｣でいい。

これで２択だ。次に｢同一意味段落｣から、｢科学的に知る｣ことの内容を捉えたい。次段落冒頭で｢科学的に知ることは『知る』ことの一部で、科学的知識であるからには明確な言語で表現される必要がある｣と説明されている。したがって、｢共通の言語を用いて(理解する)｣となっている(ウ)は｢消去｣できるはず。(ア)は｢明確な言語を用いて(認識する)｣と説明されており、他の部分の説明にも特に誤りはない。よって、｢答え｣は(ア)でいい。｢原意消去｣からの｢２段階消去｣、これもしっかりと使えるようにしておくこと。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜時間配分目安：１分半＞