開成高等学校 入試対策
2025年度「開成高等学校の数学」
攻略のための学習方法
全体的に全く手が付けられないという問題ではない。1年間における受験勉強の流れを概観する。夏までの時期には、標準問題の徹底した演習が不可欠である。夏は、受験生にとって大事な時期であり、翌年の受験の合否を決定すると言っても過言ではない、まさに受験勉強の『天王山』である。この時期(夏)から全国レベルの難関校の数学の入試問題に挑戦して欲しい。夏の時期にしっかりとした基礎力と応用力を身に付けることに専念すること。
そのような『学力』を確実に習得することが、秋以降本番入試までの確かな実戦力を着実にする唯一の方法であることを認識して欲しい。そのためには、何をどうすればよいのかについて、具体的に分野を絞って以下に見てみたいと思う。
(1)数の性質に関する問題には要注意である。
小数点第2位を四捨五入して、というような条件を与えられた場合に、不等式を用いて式を立て、設問が求めている解答を導き出す手法がある。その際にも、闇雲に思考を進めては時間のロスは否めない。
適正な方向性をもって論理を組み立てられるかどうかは、どの問題においても必須な要件であり、その部分がぶれていては、自分で『素晴らしいアイデア』だと自画自賛したところで、それは単なる思い付きに過ぎず正解にはたどり着けないだろう。また、数の性質、特に整数解を求める不定方程式などの問題にも十分慣れておくように。
(2)関数の問題は必ず出題される。
放物線と直線、つまり2次関数と1次関数の融合問題は得意分野となるまで徹底的に演習を重ねて欲しい。この分野の問題は、特定の高校という訳ではなく、高校受験の数学においては必須分野である。何故か。それはこの融合問題によって、中学数学のほぼ全分野の知識とその理解とが確認できるからである。2~3点具体例を挙げてみる。
第1に、放物線と直線の交点の座標に関連した問題である。その交点のx座標は、放物線と直線との連立方程式(つまりxに関する2次方程式の解)となる。その際、単純に解の公式を用いてxの解を求めるというのではなく、その後の問題展開を考慮して『解と係数の関係』を用いた方が、端的にかつ確実に正解を求められる場合がある。
第2に、放物線と直線との2交点を用いて特定の図形(三角形の場合が多いが)と面積が同じになる、又は2倍、3倍となる場合における2交点以外の放物線上の第3点目の座標を求める問題も要注意である。様々な解法はあるが、基本的には『等積変形』の考え方を如何に効率よく設問に当てはめていくか、ここがポイントである。
また、上記2交点と特定の条件を付与された動点Pによって出来上がる図形におけるxとyの関係を基本とする問題、いわゆる『軌跡』に関しても事前準備はしっかりやっておくこと。
第3に、『格子点(x、y座標の値が整数値)』に関してもその特性を自在に扱えるようにしておかなければならない。
平面座標から格子点の個数を具体的に数えさせたり、文字を使って抽象的に条件を与えられ、格子点の数を所与の文字を使って表現させたりする出題も可能である。
第4に、確率の問題にも拡張できる。
例えば、点Pが原点をスタート地点としてサイコロを振り(振るサイコロは1個とは限らず、複数の場合もあり得る)、5回までは偶数目はx軸方向へ、奇数目はy軸方向へ進み、6回~10回目までは、偶数目はx軸方向と逆へ、奇数目はy軸方向と逆へ進みとして、最終的に点Pが再び原点に戻ってくる確率を求める問題などにも慣れておく必要がある。
以上、概観したように、放物線と直線との融合問題には数量編は当然のこととして、幾何・確率の分野までも出題可能なのである。ここに、この分野が高校入試において必ず出題される理由がある。
(3)立体図形(空間図形)に関する問題も繰り返し演習を行っておくこと。
立体図形の切り口を扱う問題は得意として欲しい。この問題は基本的には立方体を使う場合が多いが、原則的に同一平面に存在する2点を結ぶ作業を行い、次に対面に対し平行に直線を引くという手順で進めてゆくと手際よく切り口の形が見えてくる。その結果得られた『平面図形』において、三平方の定理・合同・相似・点対称移動などの考えたかを用いて解答する問題形式となる。
また、空間という三次元の世界を紙という二次元の思考の中で考えるために、有効な手段を示して置く。『立体を三方向からイメージする』ということである。三方面とは、『真上・真正面・真横』である。
これらの方向からのイメージを頭の中で一つの立体として完成させ、できれば回転させたり斜めにしたりできるような想像力を逞しくする訓練を積んで欲しい。そのためには、コンピュータ・グラフィックなどを実際に自分の目で見てみることも大事である。
(4) 最後に規則性の問題も重要である。
規則性には様々な出題形式があるが、数列の場合を考えてみると、第n項の値についてnを用いて数式化する訓練をしっかりつけること。項数との関係性も重要なファクターである。数列以外にも、規則性の問題は限りなく存在するので様々な問題形式に触れておくように。
総括として一言。
参考書や問題集には、特殊な受験テクニカルな公式が掲載されている場合が多いが、大事なことはその公式を丸暗記して目の前の問題の数値を当てはめて答えを出すのではなく、一度自分でその公式がどのようなプロセスで導き出されたのかを検証することである。公式はあくまで結果であって、大切なことはその結果に至る過程(プロセス)でどのような『考え方』を用いたかであることを忘れないでほしい。
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2025年度「開成高等学校の数学」の
攻略ポイント
特徴と時間配分
【大問1】数の性質問題<10分>
(1)2次方程式(三平方の定理)に関する問題<2分>
(2)適切選択肢問題<2分>
(3)三平方の定理における数値の決定問題<3分>
(4)三平方の定理における3つの数値を求める問題<3分>
【大問2】平面図形(正方形・正三角形)に関する問題<15分>
(1)角度を求める問題、3点の関係性に関する問題<4分>
(2)面積比に関する問題<3分>
(3)平面図形の面積と式の値に関する問題<8分>
【大問3】データ活用(ヒストグラム、箱ひげ図)に関する問題<15分>
(1)四分位数に関する問題<6分>
(2)第3四分位数などに関する問題<9分>
【大問4】関数(2次関数と1次関数)に関する融合問題<20分>
(1)x座標を求める問題<5分>
(2)x座標を求める問題<6分>
(3)回転体の体積比に関する問題<9分>
【大問1】数の性質に関する問題
- 時間配分:10分
各設問の出題意図と解答時間は以下の通りである。
(1)基本的計算能力と三平方の定理<2分>
a2+b2=c2を満たす自然数の組(この自然数のことをピタゴラス数という)に関する問題である。具体的なピタゴラス数を計算して基礎的な計算力と三平方の定理の知識を確認する問題である。
(2)整数論的思考力<2分>
a2を3で割った余りの性質(0または1)を利用して、特定の条件(cが3の倍数)が他の変数にどのような影響を与えるかを考察させることにより、整数論的論理思考力を問う問題である。高校数学で学ぶ『合同式』の考え方を理解しているとスムーズであるが、中学数学のレベルでも『余りによる分類』で解法できる。
(3)(4)ピタゴラス数の性質理解と探索力<両問合わせて6分>
与えられた条件よりピタゴラス数を網羅的に、または効率的に求める数学力を確認する問題である。
(3)は、cが与えられた場合の探索問題
(4)は、aが与えられた場合の探索問題であり、(c−a)(c+a)=b2のような因数分解を利用する解法が重要となる。与えられたリストから漏れがないかどうかを確認することで、体系的な探索力と正確な数的処理能力を見る問題である。
※本問に関する以下の類似問題に挑戦しよう!(解説は略)
問題
自然数 a、b、c は、a2+b2=c2 を満たす組とする。
(1) 次の問いに答えよ。
① ある直角三角形の2つの短い辺の長さが 16 と 30 であるとき、最も長い辺の長さを求めよ。
② ある直角三角形の最も長い辺の長さが 34 で、短い辺の1つが 16 であるとき、もう一つの短い辺の長さを求めよ。
(2) c=85 となる自然数の組 (a、b、c) をすべて求めよ。ただし、a≦b とする。
解答
(1) ① 34 ② 30
(2) (a、b、c)=(13、84、85)、(36、77、85)、(40、75、85)、(51、68、85)
【大問2】平面図形(正方形、正三角形)に関する問題
- 時間配分:15分
(1)(ⅰ)角度及び3点の位置関係に関する問題<4分>
四角形ONAK、△ONPは正三角形であることより△APNは二等辺三角形である。このことより∠PABを求めることができる。同様に、△AKQは二等辺三角形となることより∠QABを求める。
(ⅱ)∠PAB=∠QAB=15°であることより、A、P、Qの3点は一直線上に存在することとなる。
(2)面積比に関する問題<3分>
図の中に4つの合同な正方形、4つの合同な正三角形があり、その1辺=aとすると、正方形ABCDの1辺は2aとなる。また、正方形PQRSの1辺=√2aとなるので正方形ABCDと正方形PQRSの面積をaを用いて表すことができる。
(3)面積、式の値に関する問題<8分>
与えられた図形の対称性からB、Q、RとC、R、SとD、S、Pは一直線上にあり、△ABQ、△BCR、△CDS、△DAPは合同となる。三平方の定理などの幾何学の基本的原理をあてはめる。
出題意図
本問は、図形問題で得られた角度の情報を活用し、具体的な辺の長さを求める能力に関する問題である。また、三平方の定理や因数分解の公式を利用した代数的な計算力も問われている。特に、与えられた条件「直角三角形ABQ」を適切に解釈し、どこが直角であるかを推測する能力も重要である。本問は、中学生や高校生向けの図形問題でよく見られる、幾何学的思考力と代数的計算力を総合的に評価する問題となっている。
出題意図を具体的に見ておきたい。
①図形認識と性質の理解
正方形や正三角形といった基本的な図形の性質(辺の長さ、角度、対称性)を正確に理解しているかを問う問題である。
②角度の計算
図形内の複雑な角度を、既知の角度から論理的に導き出す能力が必要である。特に、二等辺三角形の内角の性質や、正方形と正三角形の組み合わせから生じる特殊な角度(15°など)を計算できるかがポイントである。
③座標幾何学の応用
辺の長さを求める際に、三平方の定理を適切に利用できるかが重要である。
④連立方程式や代数式の操作
辺の長さが具体的な数値になった後、それらを用いた代数的な計算(和、差、積、平方和など)を正確に行えるかを問う問題である。
⑤論理的思考力
問題文の条件(例:「直角三角形ABQ」)を図形と整合させ、最も妥当な解釈を導き
出す推論力が問われている。
上記要素がバランス良く問われており、解くには複数の数学的知識と論理的思考力を組み
合わせて取り組む必要がある。
【大問3】データ活用(ヒストグラム、箱ひげ図)に関する問題
- 時間配分:15分
(1)四分位数の変化に関する問題<6分>
データ活用における各種概念(中央値、平均値)の原理的理解を深めること。特に、箱
ひげ図について四分位数は極めて重要である。
(2)点数、第3四分位に関する問題<9分>。
平均値などの概念的理解と前問同様、四分位数に関する正確な理解力が問われる。
出題意図
本問は、統計分野におけるデータの整理と分析に関する基本的な理解度を測るものであり、具体的には以下の能力を問う問題である。
① ヒストグラムと箱ひげ図の読解力
与えられたグラフから、度数、階級値、中央値、四分位数、最大値、最小値などの統計量を正確に読み取ることができるか。
② 統計量の変化の理解
データが追加されたり、修正されたりした場合に、中央値や四分位数などの統計量がどのように変化するかを論理的に判断できるか。
③ データの再構成と特定
修正されたデータに基づいて、特定のデータ(例:28番目と29番目のデータ)の値を特定できるか。
④ 定義の正確な理解
中央値や四分位数の定義(特にデータ数が偶数の場合や奇数の場合)を正確に理解しているか。
総合的に、単にグラフを読み取るだけでなく、データが変動した際の統計量の変化を考察し、定義に基づいて正確な値を導き出す応用力が求められる問題といえる。
【大問4】関数(2次関数と1次関数の融合問題)に関する問題
- 時間配分:20分
(1)x座標を求める問題<5分>
P、Qの点の座標を各グラフの連立方程式を解いて求める。放物線と直線を連立させて解(P、Qのx座標)を求める場合に、直線の傾きであるaの正負における適・不適を検証することを忘れないように注意すること。
(2)x座標を求める問題<6分>
a=6+4√2のときRのx座標を求める。直線PQの式を設定し、y=0を代入する手順でxの座標を求める。
(3)回転体の体積比を求める問題<9分>
△OPQと△OQRをそれぞれx軸の周りに1回転させた立体の体積比を求める問題である。P、Qからx軸に垂線PH、QIを引く。△OQRを回転させた立体の体積は△QRIと△QOIを1回転させた2つの円錐を合わせた立体となる。また、△OPQを回転させた立体の体積は、△PRHを1回転させた円錐より△OQRおよび△POHを1回転させたそれぞれの円錐を引いた立体である。
出題意図
本問は、放物線と直線に関する総合的な知識と応用力を問うものであり、具体的には以
下の数学的力を問う問題である。
①二次関数と直線の交点
放物線 y=x2と直線 の交点の x座標を正確に求める能力。特に、式が複雑な形をしている場合でも、落ち着いて代入し、因数分解などを用いて解を導き出す計算力と代数操作のスキルが問われる。(1)
②定数を含む式の計算
定数aが含まれる式を正確に扱い、複雑な数値を代入して計算を進める能力が必要である。(2)
③ 図形の回転体と体積
放物線と直線で囲まれた図形を回転させたときにできる立体の体積を求める能力。
特に、回転体の体積の公式(円錐や円錐台)を理解し、その応用として積分(高校数学)を使わずに、相似比や図形の分解・合成で考察させることを意図している設問である。(3)
④ 幾何と代数の融合
座標平面上の点、直線、図形に関する情報を代数的に処理し、幾何的な性質と結びつけて考察する総合的な思考力が必要である。このような出題形式は上位校においては頻出問題である。
総合的に、二次関数、直線の方程式、図形と体積という複数の数学分野の知識を横断的に活用し、論理的に問題を解決する応用力が求められる問題である。
攻略のポイント
柔軟な発想とイメージコントロールを要求される多種多様な問題設定である。全く手が付けられないという問題はないであろうが、限られた時間の中で手際よく正解を導くためには、相当な演習量をこなし発想力や着眼点を日頃の学習において最高に磨かなければならない。
演習問題のレベルは、当然ながら全国最難関校以上のレベル感であり、単純なスキル演習を数多くこなして対応できる問題レベルではない。正解へ向け、瞬間的に解法への適切な方針を立てられるか、この点が最重要である。さらに、方針を立てる場合に、3手先、4手先まで見通すことのできる「眼力」が必要である。先々まで想定できる力こそ、真の数学思考力であると認識して欲しい。
また、図形問題や整数の性質問題などにおいては、事象の本質的領域に関わるような発想ができるかどうかが正答を導けるか否かのカギである。図形問題では、空間における複眼的な見方(2方向から見た平面図を頭の中で一体化する見方)の練習をしっかり行うことが必要である。幾何図形の証明問題は問題の本質をしっかり理解し、証明したい事項を論理的に思考することが肝要である。