Ｑ町Ｃ川の河川敷に突如(とつじょ)現れたガゼル、日本に生息するはずのない野生動物の出現をめぐって人間世界の社会や政治が取り巻き始め、さまざまな人々が浮き足立ち、それぞれの思惑が交錯していく……。

本文では、大学を休学してガゼルの周囲の柵(さく)を警備するアルバイトをしている｢私｣と、ガゼルの様子をＳＮＳで発信し続ける｢女性｣、３週間に１度ぐらいやって来て１日中じっとガゼルを見つめている｢少年｣の姿が中心に描かれている。

例年、｢説明記述設問｣では、｢内容説明｣｢換言説明｣｢理由説明｣｢心情説明｣がほぼ同じ程度の割合で出題されていたが、本年度は｢理由説明｣が中心になっている。尚、定番の｢条件付き｣の設問がいくつかある。無論、｢条件｣をいかに的確にクリアできるかが正否のポイントとなってくる。当然ながら、｢選択肢設問｣｢抜き出し設問｣も抜かりなく。

以下、具体的にいくつかの設問を検討してみたい。

※尚、本校では例年、｢本文｣全体に｢５行ごと｣に｢行番号｣が記されている。

 

[問一]　｢漢字の書きとり｣(４問)。

 

(ａ)｢日本全国にチャクジツに増え始めていて｣＝｢着実｣⇒間違いようがない。

(ｂ)｢その日は平日で、学校などはないのだろうかと私はシアンした｣＝｢思案｣⇒やや悩むか？ ｢文脈｣を正確につかむこと。

(ｃ)｢ガゼルを通してユウコウ関係を結ぶ｣＝｢友好｣⇒これは問題ないはず｡

(ｄ)｢少年は、柵(さく)のハてまで走って｣＝｢果(て)｣⇒馴染(なじ)みの薄い表現か？ ここでは｢終わり｡限り｣といった意味だ。

 

本年度を含めここ数年は平易なものが多い｡だからこそ、油断せずに丁寧に記していきたい｡無論､本校志望者は｢全問正解｣が必須だ。

＜時間配分目安：１分＞

 

[問二(１)]　｢指示語換言の抜き出し｣(｢20字｣指定)。傍線部①｢それ以上に私がそのことを実感したのは、彼がガゼルに何らかの呼びかけをしようと柵から身を乗り出し、口元に手を当てて、しかしいつも何も言わずじまいに終わることだった｣について､｢『そのこと』とは何を指しているか｣、本文中から｢二十字｣で抜き出して答える。

典型的な｢指示語換言｣の問題。｢指示語が出たら前を見よ｣が鉄則。確認すると、直前から｢そのこと｣＝｢彼がガゼルを『ものすごく好き』であること｣だとすぐに分かるはず。｢字数｣もＯＫ。指示語部分に｢代入確認｣する。大丈夫だ。よって、｢答え｣は｢彼がガゼルを『ものすごく好き』であること｣になる。

本校に限らず｢指示語設問｣は頻出だ。｢抜き出し｣｢記述｣などの設問形式を問わずこなせるように解法を習得しておくこと。尚、必ず｢代入確認｣をして｢形式｣｢内容｣ともに合致するかをチェックせよ。

＜時間配分目安：１分弱＞

 

[問二(２)]　｢理由説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行。１行＝25～30字程度。以下同じ)。前問と同じ傍線部①について､｢『少年』が『いつも何も言わずじまいに終わる』のはなぜだと『私』は考えているか｣を説明する。

｢同一場面｣から｢状況｣を読み解いていきたい(｢小説は同一場面の直前直後に根拠あり｣が大原則)。直後から、｢少年｣はガゼルに｢何かを言いたい｣が、｢何を言ったらいいかわからない｣し、｢ガゼルが呼びかけを望んでいるかどうか｣は｢不確か｣だと思っていると、｢私｣には｢伝わってきた｣ことが読み取れる。また、次段落では｢彼(＝少年)はどこかでガゼルにその存在を知られたくないと考えているように思えた｣と説明されている。これらの内容が｢私｣が考えている｢理由｣だと読み取れるはずだ。そして、｢いつも何も言わずじまいに終わる｣のは｢なぜか｣なので、｢ガゼルにその存在を知られたくないと考えている｣ことが｢直接的理由｣になると判断できる。以上を｢過不足なく｣まとめていきたい。

たとえば、｢ガゼルが呼びかけを望んでいるかどうかは不確かに思えるし、声をかけることで自分の存在を知られたくもないと考えているから｡｣(59字)といった｢答え｣になる。

的確に｢状況｣を把握することが肝要。尚、｢説明記述｣では、必ず｢最重要要素｣(｢理由説明｣では｢直接的理由｣)を｢文末｣とすること。  

＜時間配分目安：２分半＞

 

[問五]　｢内容説明選択肢｣(４択)。傍線部⑤｢少年は、逡巡(※⑨｢決心がつかず、ためらうこと｣)を見せたあげく、右手をゆっくりと挙げて、ガゼルに向かってふった｣、⑥｢少年は、やっとガゼルに対して言いたいことがまとまったようで、そう口にした｣について、｢このような『少年』のあり方から、どのようなことが読みとれるか｣を答える。

｢選択肢問題｣は｢消去法｣が大原則だ。先ずは｢設問｣だけで｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡

傍線部⑥の｢やっとガゼルに対して言いたいことがまとまったようで｣という表現の｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣していく。

各選択肢の｢文末｣を確認する(｢選択肢説明｣のポイントとなる最重要要素は｢文末｣にある)。

 

(ア)｢確かめようとした｣､

(イ)｢問いかけられるようになった｣､

(ウ)｢教えてもらおうとした｣､

(エ)｢たずねようとした｣｡

 

｢やっと｣｢まとまったよう｣なのだから、｢問いかけられるようになった｣以外は｢消去｣だと判断できるはずだ。念のために、｢そう口にした｣を確認する。｢そう｣＝｢きみ(＝ガゼル)は行きたいところはないのか？｣だと分かる((｢指示語｣が出たら即開くこと)。

選択肢(イ)は｢ガゼルの望みについても(問いかけられるようになった)｣となっている。問題はない。他の部分の説明も特に誤ってはいないので、｢答え｣は(イ)だ。

結果的に｢一発消去｣となった。｢原意消去｣、十分に活用すべし。

＜時間配分目安：１分＞

 

[問六]　｢条件付き換言説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行)。傍線部⑦｢彼の叫びが自分の叫びであるような気もした｣について､｢どういうことか｣を説明する。｢条件｣は､｢具体的に説明する｣こと。

｢換言説明｣なので、｢彼｣と｢自分｣とは誰で、｢叫び｣とは何かをどのように言い換えて説明するかがポイントになる。同一場面の直前直後から読み解いていく。｢彼｣＝｢少年｣、｢自分｣＝｢私｣だとすぐに判断でき、｢彼｣の｢叫び｣は｢おれは北海道に行きたい。学校には行きたくない｣であり、｢自分｣の｢叫び｣は、実際に口に出して叫んではいないが、地の文にある｢北海道はともかく、とにかく学校には行きたくなかった。私も、学校と北海道なら、圧倒的に北海道に行きたかった｣という｢思い｣だとも読み取れる。

あとは、｢条件｣に即してできるだけ｢具体的｣にまとめていきたい。たとえば、｢少年がガゼルに対して叫んだ『学校には行きたくない』という言葉が、自分の大学に行きたくないという思いと重なったということ｡｣(60字)といった｢答え｣だ。

｢換言説明記述｣では、どの部分をどのように｢言い換えるか｣がカギになる。尚、本校に限らず、｢条件｣は｢手がかり･ヒント｣だと心得よ。

＜時間配分目安：３分＞

 

[問十]　｢相違内容説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行)。傍線部⑫｢行きたければ行ってくれ！｣について、｢ここでの『少年』のガゼルに対する思い｣は、傍線部⑪の｢自分はガゼルをよそへ行かせないために活動している｣という｢『女性』の思いとどのように違うか｣を説明する。

先ずは｢少年｣。直前から、突如(とつじょ)として柵を越えて走り出したガゼルに対して、｢少年｣が｢行け！｣と｢叫び声｣をあげ、傍線部に続いていることが分かる。であれば、｢ガゼルが望むところへ行ってほしい｣と思っていると読み取れる。

一方、｢女性｣の方はどうか？ 同一場面を確認する。｢女性｣はいつもガゼルを観察し、画像や動画をＳＮＳで発信していて、｢ガゼルをよそへ行かせないために活動している｣のだから、｢よそ｣＝｢自分の目が届かないところ｣へは｢行ってほしくない｣と思っていることが分かるはずだ。

こうした両者の｢相違｣を的確にまとめていけばいい。たとえば、｢少年はガゼルが望むところへ行ってほしいという思いだが、女性の思いは自分の目が届かないよそへは行ってほしくないという違い｡｣(60字)といった｢答え｣になる。

｢相違内容説明｣では｢両者の明確な違い｣、｢変化内容説明｣では、｢変化の前後｣をしっかりと説明する必要があることは記銘しておきたい。

＜時間配分目安：４分＞