出典は、『〈病〉のスペクタクル―生権力の政治学』（著者：美馬達哉）。

（問一）漢字書取り問題である＜2分＞。
「要請」「徹底」「示唆」「揺」の書き取りである。漢字の読みは「脆弱」＝「ぜいじゃく」である。

（問二）接続詞選択問題である＜2分＞。
Ａ　空欄Ａの直後には「具体例」が書かれている。
Ｂ　空欄Ｂは、前の文を受けて「まとめ」のつなぎ言葉である。
Ｃ　空欄Ｃの前後関係は「因果関係」である。
Ｄ　空欄Ｄの前後関係は「並列関係」である。

（問三）内容把握選択問題である＜3分＞。
「新しい」とは何かを考える。本文には「…感染症の病原体は、すでに環境のなかに存在していた」のであるが、「突然変異によって人間での感染症」となったのである。

（問四）内容把握記述問題である＜5分＞。
「人間と動物に共通した感染症はかなり多い」のであり、「公衆衛生的な監視の対象」となるのは「人間の感染者に加えて、さまざまな動物の感染症の消長」なのである。

（問五）内容把握抜出し問題である＜4分＞。
「現代社会において、動物への配慮という形での監視の権力が現れている」のであり、その一例が「監視の動物化」である。

（問六）内容把握選択問題である＜4分＞。
イ　「彼(ジョルジョ・アガンベン)は、…絶えず引きなおされ続ける境界設定の線引き問題」が「バイオポリティクスの本質」であるとしている。
エ　本文の結論部分(最終段落)に「監視の動物化とは…動物へとまなざしを向けることで…『余分な人間』をまなざしから排除しようとする技法なのかもしれない」とある。

【出題意図】
本問は、鳥インフルエンザ、エイズ、SARSといった具体的な感染症の事例を取り上げながら、感染症と人間社会、そして公衆衛生をめぐる現代的な問題点を論じたものであり、出題意図は、受験生が以下の3つの能力を持っているかを確認することにある。

1. 現代社会の重要テーマに関する理解力と背景知識
本問で「感染症」を題材とすることで、受験生が社会で広く議論されている以下の内容を理解できているかを見ている。
•感染症の捉え方の変化：現代の人間活動（グローバル化など）が感染症の発生・拡大を促しているという、人間側の責任を問う視点。
•バイオポリティクス（生政治）の視点：監視、検疫、ワクチン接種といった医学的処置が、実際には人間と動物の関係性、ひいては国家や社会による個人への介入という政治的な側面に深く関わっているという、批判的な視点を受け止められるか。

2. 論理的な読解力と概念の把握
筆者が設定した独自の専門用語や対立概念を、文脈から正確に読み取る力を測っている。
•定義の把握: 「監視の動物化」「一つの健康」など、文章中の重要キーワードが、筆者によってどのように定義され、使われているかを把握する。
•論理構造の理解: 感染症が拡大する要因（グローバル化、集約飼育）と、それに対する予防や対策（監視、ワクチン）の因果関係や対立構造を整理できるか。

3. 具体的な指示に基づく情報抽出力
傍線部や空欄周辺の明確な指示（誰が、何を、どうした）に従い、必要な情報を過不足なく抽出する技術を評価する。
•選択肢の比較: 複数の選択肢の中から、本文の主旨に最も合致する、あるいは本文には書かれていない選択肢を見抜く精読力。

出典は、『でも、だけどの身体』（著者：大前粟子）。

（問一）漢字書き取り・読み取り問題である＜2分＞。
書き取りは「疎」「矛盾」「刺」であり、読み取りは「蔑(ろ)＝ないがし(ろ)」「啓蒙＝けいもう」である。

（問二）内容把握抜出し問題である＜5分＞。
本文に「他者や自らを蝕むような男性のことを暗闇の比喩で呼んでいる」とある。

（問三）内容把握選択問題である＜4分＞。
「生活の場自体が…男社会」であることより、「『男』は社会と一体になることで…個人として自らを確立する必要に駆られない」のである。

（問四）内容把握抜き出し問題である＜5分＞。
Ⅰは、「痛み」を感じている側であるので「被害」となる。
Ⅱは、「加害不安」を抱く側であるので「加害」となる。

（問五）内容把握選択問題である＜5分＞。
「適当ではない」選択肢を選ぶ問題であるので注意が必要である。ウの「登場人物のジェンダーを自在に変えられる」とは本文では述べていない。本文では「生身の私のこの身体では考えつくすのが困難な事柄」があるが、「登場人物をいうフィルターを通せば…立体的に想像力を展開させることができる」と記載されている。

※本問の内容を踏まえて以下の類似問題に挑戦しよう。
【類似問題】

類題１．
傍線①「暗闇」を、筆者が過去の経験と自己の存在をめぐる葛藤の中でどのように捉えているか、本文に即して30字以内で述べよ。

解答： 過去の傷を守る代償として、先の見えない不確実な状態に自分が置かれているという状況。
解説： 過去の痛みが時間によって無意味になるのを拒み、影に閉じ込めた結果、現在と未来の展望（光）を失ったという、自己防衛と不安が表裏一体となった状態を表している。つまり、暗闇とは、過去を守ろうとした結果、未来が見えなくなり、自分自身が不安定になった心理状態を比喩的に表しているのである。

類題２．
傍線部②「『男』の身体は、ないというより社会と巧妙に一体となって隠れてしまっている。」が示す、筆者の「男らしさ」規範に対する認識として最も適切なものを選べ。
1.「男の身体」は生物学的には存在しないが、社会的にはその存在が幻想として信じられている。
2.「男の身体」は個人の中にはあるが、筆者はその規範の重圧から逃れるためにその存在を認めないでいる。
3.「男の身体」は社会規範と完全に同化し、当たり前すぎて意識されない存在となり、規範から逸脱した筆者を常に疎外している。
4.「男の身体」は社会にとって都合の良い虚像であり、その虚像の背後に隠された筆者の真の身体性を理解する必要がある。

解答：３

解説：
1. 「隠れてしまっている」の意味
筆者が「隠れてしまっている」と表現するのは、「男らしさ」という規範（ルール）が、社会の仕組みや文化、人々の無意識の行動の中にあまりにも深く溶け込んでいるからである。
•「社会と巧妙に一体となって」：これは、「男らしさ」が誰にも疑問視されない「空気」のような、当たり前の前提となっている状態を指している。
•結果としての「隠蔽」：当たり前の前提になってしまうと、それは意識の対象から外れ、議論されなくなる。これが「隠れてしまっている」状態である。

2. 規範の二重の作用
この「隠れてしまっている」規範は、筆者にとって以下の二重の苦悩を生む。
①逸脱者の可視化：規範が「隠れて」いるがゆえに、そこから外れた「男らしくない身体」を持つ筆者だけが、異物として常に目立ってしまう（「からかわれてきた」経験）。
②批判の困難さ: 批判しようにも、規範が空気のように存在するため、具体的な攻撃対象が見えない。

3. 選択肢の検討
1：生物学的な存在の有無を論じているのではなく、社会的な存在のされ方を論じている。
2：筆者が「逃れるために存在を認めない」のではなく、社会の側がその規範を不可視化していると捉えている。
3：「完全に同化」「意識されない存在」が「隠れてしまっている」ことを正確に捉え、その結果として筆者が「疎外」されているという文脈全体への影響まで含めて説明しており、最も適切である。
4：虚像というより、社会の土台として機能する規範として捉えられている。

出典は、『坂上に咲く』（著者：原田マハ）。

（問一）内容把握抜き出し問題である＜2分＞。
本文には「スコさんは、ゴッホになるんだもの。世界一の絵描きになるんだもの」とある。

（問二）内容把握問題である＜３分＞。
「それを破り捨てたい衝動」とは、「苛立ち」の気持ち(苦しい生活を1年以上続けていることに対する苛立ち)であるので、本文中に「苛立ち」を表す他の描写を見つける。本文には「『私は、いつまで、こんな、暮らしを、しなければ、なら…ねんだよもうっ』思わず机に向かって鉛筆を投げつけた」とある。

（問三）慣用句問題である＜3分＞。
二つの事象の差が極めて大きいことを意味する「雲泥の差」である。

（問四）心情把握選択問題である＜4分＞。
文脈から判断すると1年以上も棟方の「必ず迎えに行くから」という趣旨の言葉を信じていたのであり、経済的に余裕ができれば「家族(親子三人)が一緒に暮らせる」ようになるのである。

（問五）内容把握選択問題である＜3分＞。
「胸のうち」とは「夫(棟方)の言葉を信じてきた」のである。「嵐」とは「期待を裏切られたと思って」いる心の「疑い」を表している。

（問六）内容把握選択問題である＜４分＞。
適切でない選択肢を選ぶことに注意する。「版画集が売れて」ることとで「生活が楽になることを望んでいた」わけではなく「親子三人で一緒に暮らせるようになる」ことを望んでいたのであり、「花束」との関係性はないのである。