早稲田実業学校高等部 入試対策
2025年度「早稲田実業学校高等部の国語」
攻略のための学習方法
ハイレベルの入試問題対策で一番重要なことは、的確で迅速な文章読解能力である。受験生からは、試験時間が足りなくて問題文をすべて読み込むことができなかった、と嘆く声をよく聞く。
なぜ、時間内で試験問題を読み込むことができなかったか。特に、論説文などのようにより抽象性の高い場合に、そのような状況になるようである。いくつか原因は考えられると思うが、以下、何点かにわたって、論説文における対策を考えてみたい。
① 文章を読むスピードが遅い
文章を読む速度は人によって様々である。早ければよいという訳では決してない。いくら速くとも、書いてある内容の理解が足りなければ設問に対して十分な合格答案を導けないことは言うまでもない。どのようにすれば、文章読解の速度が上がるのか。結論から言えば、「緩急をつけた読解」ということになる。それでは、文章読解上の「緩急」とは何か。一言でいうならば、論説文では具体的例示の記載箇所、事実の列挙箇所についてはそれほど神経を使わずに読み進んでよいであろう。逆に、神経を使って読まなければならないのは、筆者の考えや、結論が記載されている箇所、具体的には「つまり」「したがって」などの接続詞によって導かれる文章である。つまり、文章読解で緩急をつけるということは、流し読みで内容を理解する個所とじっくり深く読み込む(指示語などが何を指しているのかを考えながら読む箇所を識別しながら読む方法である。
② 何が筆者の「結論」であるかを見つけるポイントとは
正確な読解力に欠かせないのは、文章の本質を見抜く力である。キーワードは何か。繰り返される名詞(大概は抽象名詞)は特に注意を払うことが必要である。この繰り返される「名詞」はとても重要であり、具体的に設問文を読む際に、この名詞を丸で囲んだり、傍線を引くことによって文章全体の要旨が「目で見える」状態にすることが可能(=文章の視覚化)となる。この視覚化によって筆者の論旨の組み立てを目で見えるようになることが可能になり、文章の流れがより簡便に把握できるようになるのである。そのような作業を経て筆者の「結論」を明確にあぶり出せることが可能になるのであり、日頃の学習においてもそのようなアプローチを心掛けると、入試問題のような高度で抽象的な文章の読解時間の短縮化にもつながるのである。
③ 記述対策も事前に十分行っておくこと
文章を読んで自分の考えを50~60字でまとめる練習は、日頃から十分行う必要がある。文章の要旨や自分の考えを指定された字数でまとめ上げるのは、しっかりとした練習を積まないと入試本番で慌ててしまうことになる。論理の組み立て方、結論の導き方、説得力ある文章表現力の向上など、これらのスキルは実際に文章を数多く書いてみなければ身に付かない。したがって、ハイレベルな文章読解用の記述用問題集をしっかり仕上げておくことが必要であり、また、誤字・脱字にも気を付けなければならない。そのような意味でも、文章を頭の中だけでイメージするのではなく、実際に鉛筆をもって紙に文章を書くという作業を丹念に行っておく必要がある。
志望校への最短距離を
プロ家庭教師相談
2025年度「早稲田実業学校高等部の国語」の
攻略ポイント
特徴と時間配分
大問1は、小説読解問題<20分>。出題形式は、選択肢問題。本文の要旨に合致する選択肢を選ぶ問題においては、内容が微妙に異なる選択肢に惑わされないようにすること。
大問2は、現代社会に関する論説文読解問題<21分>。漢字、記述式問題(15~20字)、内容把握選択問題。
大問3は、古文読解問題<19分>。古文の内容把握、現代語訳、文学史に関する問題。
【大問一】随筆読解問題
- 時間配分:20分
出典は、『母たちよ』(著者:神西清)。
(問一)表現問題<2分>。
人から聞いた話であるので『伝聞』である。「昔は~だったそうだ」という文脈である。
(問二)内容把握問題<2分>。
淡紅色の大きな貝殻を無断で持ち出してしまうことに対して「私が不思議そうに母の顔」を見たことに対して、「後で隆さんには断っておくから」という発言をしたのである。事後承諾を得れば大丈夫という趣旨である。
(問三)内容把握選択問題<2分>。
本問傍線部の「良心の汚点」とは何かを考える。1つは「貝殻」を「盗んだ」こと、2つは「母が見つけたのだ」と「告げ口」をしたことである。
(問四)内容把握選択問題<2分>。
本文に「…僕、あの貝殻をとられてしまって。…あれは母さんの大事なものだったんでしょう。御免なさい。…」とある。この「私」の発言から母に対する思い・心情を推測する。
(問五)内容把握問題<2分>。
「もう一つ心に咎めていること」とは「(貝殻は)母が見つけたのだ」と「告げ口」したことである。
(問六)心情把握選択問題<2分>。
「奇怪な呵責」とは「罪と愛情の入れまじった」ものであった。「罪」とは、母に命じられて盗みに組してしまったという罪の意識であり、かつ、母の大事にしていたものが自分のせいで失われてしまったことに対する「母への謝罪」の気持ちも抱いているのである。
(問七)内容把握選択問題<2分>。
本文には「自己の内の悪に敏感なだけではない、…身内が悪であっても充ち満ちている人間が、やむを得ず自分に着せる見えざる鎧に過ぎない」とある。つまり、「他人の秘密を他言しないという高潔な態度」は「自己の内なる悪に十分に自覚的であることを『私』が覆い隠すための方便」に過ぎないのである。
(問八)内容把握問題<3分>。
「友達などが、…自分の弱点や罪悪を私に打ち明けた場合でも、…ほとんど何の義憤も感ぜず」にその人を「許すこと」ができたのである。それは、友達などが打ち明けた「弱点や罪悪」を「自分の中に見だした」からである。
(問九)内容把握問題<3分>。
他人の「弱点や罪悪」に自分が寛大である理由を考える。それは、他人が告白する「弱点や罪悪」を「自分の中に見いだした」からであることを「私は自覚」していたのである。しかし、周りの人間がそのことを見抜けないでいる状況に対し、私は「冷たい目」で見ているのである。
※以下の類題に挑戦しよう。
問 次の文を読んで、後の問いに答えなさい。
私は、積み上げられた段ボールの山の中で、古びたスケッチブックを見つけた。表紙は色褪せ、角は丸みを帯びている。埃を払うと、祖母がかつて描いたらしい、水彩画の柔らかな匂いがした。ペラペラとページをめくる。最初の数枚は、どこか異国情緒あふれる風景が描かれていた。大きな尖塔を持つ教会の裏手、石畳の道、濃い影を落とす街灯。しかし、絵は次第に祖母の部屋の周辺へと変わっていく。窓から差し込む光の筋、使い込まれた裁縫箱、小さな植木鉢の苔むした緑。どの絵にも、生活の断片が慈愛深く切り取られていた。中でも私の目を引いたのは、八枚目の絵だ。それは、(ア)祖母の部屋の、隅の壁だけを緻密に描いた一枚だった。壁紙の破れた部分、その下から覗く古い木材の木目、そして、壁に立てかけられた古いブリキ缶の鈍い光沢。なぜこんな何でもない場所を、時間をかけて描いたのだろう。私はその絵を、いつまでも飽きずに見つめていた。その時、背後で、母が静かに息を吐く音が聞こえた。
「それ、おばあちゃんが、まだ目が見えていた頃に描いたのよ」
母は壁際の窓に目を向けた。
「…若い頃は画家になりたかったんだって。だけど、目が悪くなって、とうとう筆を折ってしまった。でも、諦めなかった。(イ)どんなに視界がぼやけても、彼女にとっては、この部屋の全ての光と影が、まだ手に触れられるほど鮮明な記憶だったのよ。だから、描かなくなった後も、こうして『光』を描き続けていたの」
私は、八枚目の壁の絵をもう一度見た。そこに描かれているのは、確かに光と影だけだった。破れた壁の凹凸が光を受け、ブリキ缶が鈍く反射する。それは、ただの風景ではなく、祖母の人生が、その部屋の空気と共に、結晶化したように感じられた。
「ねえ、お母さん」
私は声を絞り出した。私の胸の奥には、祖母の諦めと、それでもなお何かを愛し続けた熱が、小さな炎となって灯った気がした。(ウ)私は、この小さなアパートの一室と、そこに詰まった祖母の人生の、深い意味を、今、初めて心の底から理解できたのだった。
問1.(ア)祖母の部屋の、隅の壁だけを緻密に描いた一枚 に関連して、この壁の絵が他の風景画と比べて特に「緻密」に描かれていることは、祖母のどのような心情や意識を最もよく表しているか。次の中から選び、記号で答えよ。
ア. 過去の異国での輝かしい記憶を呼び起こすための、単なる写生練習であるという意識。
イ. 視力が衰える中で、細部に宿る「光」を捉えようとする、祖母の芸術家としての強い執念と諦念。
ウ. 壁の破れという「負」の要素を強調することで、貧しい生活への不満を間接的に表現しようとする試み。
エ. 目が見えなくなっても、愛する孫が訪れた際の部屋の様子を記録しておきたいという、家族への愛情。
問2.(イ)どんなに視界がぼやけても、彼女にとっては、この部屋の全ての光と影が、まだ手に触れられるほど鮮明な記憶だったのよ について、母が言いたかったこととして最も適切なものを、次の中から選び、記号で答えよ。
ア. 祖母は、視力が完全に失われる前に描いた絵だけを心の支えとしており、絵の具の触感でしか世界を認識できなくなっていた。
イ. 祖母にとって、この部屋の光と影は、単なる視覚情報ではなく、長い人生のすべてが詰まった、五感で感じられるほどの確かな現実であった。
ウ. 祖母は視界のぼやけを悲観することなく、写真のように精密に物事を記憶する能力に長けていたという、才能を伝えたかった。
エ. 祖母は、この部屋のものをいつか孫である「私」に譲るつもりで、あえて不鮮明な描写にすることで、想像の余地を残していた。
問3.(ウ)私は、この小さなアパートの一室と、そこに詰まった祖母の人生の、深い意味を、今、初めて心の底から理解できたのだった とあるが、この時の「私」の心情を説明したものとして、最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア. 才能を持ちながらも夢を断念した祖母への同情と、その寂しい人生を理解できなかった自分自身に対する後悔の念。
イ. 遺品整理という作業の重労働から解放され、祖母の死によってもたらされた家族の歴史が区切りをつけたことへの安堵感。
ウ. 夢破れてもなお、目の前の日常の断片を愛し続けた祖母の生きた証を認識し、その強さと愛情に感銘を受けた感動。
エ. スケッチブックに描かれた異国の風景を見て、祖母の生前の生活が、自分の知る「アパートの部屋」よりも華やかであったと初めて知った驚き。
《解答》
問1.イ
解説: 早稲田実業の小説問題では、「なぜその行動をとったか」という深層心理を問う傾向が強い。傍線部(ア)の「緻密」は、直後の母の解説(「目が悪くなって…諦めなかった」「視界がぼやけても鮮明な記憶だった」)と結びつく。緻密な描写は、見えにくくなった目を補おうとする祖母の「執念」と、それでも完全に描けないことへの「諦念」の両方を内包している。
問2.イ
解説: 「手に触れられるほど鮮明な記憶」という比喩表現がポイント。これは、視覚だけでなく、触覚やその他の感覚(五感)を通して、その場所に深く結びついていたということを示唆する。単なる「記憶力」(ウ)や「絵の具の触感」(ア)に限定せず、「長い人生のすべてが詰まった確かな現実」として捉える(イ)のが、心情や背景を含む小説読解として最も適切である。
問3.ウ
解説: 祖母は夢を断念したが、代わりに「部屋の全ての光と影」を愛し続けた。これは単なる「同情」(ア)では捉えられない。「小さな炎となって灯った気がした」という直前の描写が示すように、主人公は祖母の諦めではなく、その後の「愛し続けた熱」、すなわち「生きた証」と「強さ」(ウ)に心を打たれている。
【大問二】哲学に関する論説文読解問題
- 時間配分:21分
出典は、『わからない世界と向き合うために』(著者:中屋敷均)。
(問一)漢字の書取り・読取り問題<3分>。
漢字の書き取りは「典型」「因果」、読み取りは「卑しい=いや(しい)」である。標準的な感じであるので完答したい。
(問二)内容把握記述問題<5分>。
「人間のような複雑な存在を単純な数字として指標化することなどできない」のである。
(問三)内容把握記述問題<6分>。
A 客観的なデータ(例えば、学力試験での点数)で評価するということは、「極めて一面的な評価」なのである。
B 「明確な点数が出てくるくる学力試験はある種、公正で、わかりやすい」のである。つまり、「明瞭さと公平性を担保」できるのである。
(問四)内容把握記述問題<7分>。
絶対的な正しい評価基準は存在ないのである。よって、自分自身の「自尊心」を守るためにはそのような評価基準というものは存在しない方がよいのである。
※以下の類題に挑戦しよう。
問 次の文を読んで、後の問いに答えなさい。
現代社会を生きる私たちは、常に他者からの「評価」のまなざしにさらされていると言っても過言で
はない。この「評価」とは、多くの場合、数値や順位といった客観的な指標に還元され、(ア)個人の価値を測る定規として絶対的な権威を持っている。学校の成績、企業の売上、SNSの「いいね」の数。これらはすべて、ある基準に基づいて私たちをランク付けし、それによって社会的な資源や機会を分配する役割を担っている。
しかし、この「客観的な評価」の過度な追求は、しばしば個人の「内的な幸福」を蝕む。なぜなら、
評価の基準は常に外部にあり、私たちが本当に価値を置く、個人的な体験や、他者との深い繋がりといったものは、その枠組みからこぼれ落ちてしまうからだ。例えば、誰かの心を救った無名の行為は、データ化された「成果」としてはカウントされない。ここに、現代の評価システムの深刻な限界がある。私たちは、社会が用意した単一の基準での成功を目指す中で、(イ)自らの魂が本当に求める「多様な価値」を見失いがちである。それはまるで、全員が一つの山頂を目指すために、それぞれの豊かな森を捨ててしまうようなものだ。森の中にこそ、独自の美しさや生態系があるにもかかわらず。
真の幸福とは、外部からの評価に依存するのではなく、むしろその評価から自由になることにある。自分の内側から湧き出る満足感、自分自身の基準で選び取った生活。これこそが、他者に代えがたい個人の「生」の深さとなる。(ウ)私たちは、客観的な「正しさ」や「強さ」を疑い、多様な「善さ」を認め合うことで、初めて個人としての自立を達成できるのである。この自立こそが、相互に尊重し合える豊かな社会の基盤となる。
問1.(ア)個人の価値を測る定規として絶対的な権威を持っている とあるが、筆者がここで指摘している「絶対的な権威」の具体的な内容として、本文の内容から最も適切に説明されているものを、次の中から選び、記号で答えよ。(本文中の表現を参考に、最も包括的なものを選ぶこと)
ア. 評価の基準が、学校や企業などの特定の組織によって厳格に管理され、一般市民には疑問を差し挟む余地がない点。
イ. 数値や順位といった客観的な指標が、社会的な資源や機会を分配する上で、抗いがたいほど強力な判断材料となっている点。
ウ. 個人の内的な努力や、目に見えない過程がすべて無視され、最終的な「成果」のみが絶対視されるという冷徹な側面。
エ. SNSの「いいね」のように、一時的で移ろいやすい指標が、個人の精神的な安定を決定づけているという現代的な問題。
問2.(イ)自らの魂が本当に求める「多様な価値」を見失いがちである。それはまるで、全員が一つの山頂を目指すために、それぞれの豊かな森を捨ててしまうようなものだ。この「豊かな森」が象徴するものとして、最も適切なものを、次の中から選び、記号で答えよ。
ア. 評価の競争から逃れて、静かに生活できる隔離された環境。
イ. 社会の単一的な基準には収まらない、個人の内的な満足や独自性。
ウ. 数値化が困難であるため、社会から軽視されがちな芸術や文化活動。
エ. 他者からの評価を気にせず、自分の好きなことを追求できる時間的な余裕。
問3.(ウ)私たちは、客観的な「正しさ」や「強さ」を疑い、多様な「善さ」を認め合うことで、初めて個人としての自立を達成できるのである とある。筆者が主張する「個人としての自立」を達成するための条件として、本文全体の内容を踏まえて不適切なものを、次の中から選び、記号で答えよ。
ア. 外部の評価基準に縛られず、自分自身の内側から湧き出る満足感を指針とすること。
イ. 社会が用意した単一の成功の枠組みから脱却し、多様な価値を積極的に探求すること。
ウ. 誰かの心を救った無名の行為など、データ化されない価値を重視し、評価の枠外にあるものに目を向けること。
エ. すべての人が競争を諦め、社会的な資源や機会の分配を平等に受け入れるシステムを構築すること。
問4. 筆者は、現代社会で重視される「客観的な評価」が、個人の「内的な幸福」を蝕む原因であると述べている。それは、どのような評価の仕組みと、それによって失われるどのような価値に起因するのか。本文全体の内容を踏まえ、70字以上80字以内で説明せよ。(句読点も一字に数える)
《解答》
問1.イ
解説: 早稲田実業の設問は、長い傍線部や抽象的な表現を、本文の具体的な文脈と結びつけて説明させる問題が多い。「絶対的な権威」とは、評価が「抗いがたい力」を持つ理由を指す。傍線部の直後に「社会的な資源や機会を分配する役割を担っている」と具体的に説明され、これが評価の権威の源泉である。(イ)はこの機能と客観的な指標が結びついていることを示し、最も包括的である。
問2.イ
解説: 「山頂」(一つの成功基準)を目指すために「森」(多様な価値)を捨てるという比喩である。森の中にある「独自の美しさや生態系」は、山頂という外部の評価には還元できない、「私たちが本当に価値を置く、個人的な体験」、すなわち「個人の内的な満足や独自性」を象徴している。
問3.エ
解説: この種の論説文の設問では、筆者の主張を極端に解釈した選択肢が誤りとなるパターンが多い。筆者は「評価の過度な追求」を批判し「自立」を求めているが、「すべての人が競争を諦める」(エ)ことは、本文で論じられていない。筆者が求めるのは、評価の「定規」から自由になり、多様な価値(善さ)を認め合う「自立」であり、競争そのものを否定するような社会主義的な主張ではない。
問4.客観的指標が個人の価値を測る定規となり、人々が単一の成功基準を追求するためである。これにより、評価の枠組みからこぼれ落ちる多様な内的な幸福を見失うことに起因する。(72字)
または以下の解答例も可。
客観的な指標が絶対的な権威を持ち、社会の資源分配を担う仕組みの下で、人々が外部基準での成功を追求するためである。その結果、数値化されない個人の内的な満足感や、生に深みを与える多様な価値を見失うことに起因する。(80字)
【大問三】古文読解問題
- 時間配分:19分
出典は、『横笛草紙』。
(問一)古語問題<2分>。
① 「ならひ」は「習慣」のことである。
② 「理」は「道理」のことである。
(問二)内容把握問題<3分>。
しばらく何気ない会話をしていた理由は、「滝口からの手紙の存在を伏せて」おきたかったのである。
(問三)内容把握・文学史問題<3分>。
(1) 乳母は、横笛のことを「言葉に対する感覚が優れている」と認め、横笛が手紙をじっくり読めるように仕向けたのである。
(2) 作品を成立年代順に並び替えると『万葉集』⇒『古今和歌集』⇒『伊勢物語』⇒『源氏物語』⇒『狭衣物語』となる。
(問四)内容把握問題<2分>。
ウグイスは懸命に声を限りに鳴くのであり、波は繰り返し打ち寄せてくるのである。このような描写から「溢れるばかりの思い」を相手に伝えようとする「ひたむきさ、必死さ」を読み取る。
(問五)古文内容問題<2分>。
「あこがるる」とは「心ひかれる」という意味であり、「身は浮雲のごとくなり」とある。つまり、「心が不安定で落ちつかない」様子である
(問六)古文内容把握問題<2分>。
乳母は、この手紙が実は滝口から横笛への求愛の手紙であることを打ち明けて2人を結び付けようとしているのである。
(問七)古文内容把握問題<2分>。
「この世ならぬ縁」とは、滝口と横笛の出会いが、「偶然」ではなく前世からの「縁」で決まっていたものであるとして横笛を説得しようとしているのである。
(問八)和歌内容把握問題<3分>。
和歌A、Bは滝口の横笛に対する恋心を歌ったものであり、和歌Cは「埋み火の下にこがるる」「消えなん後ぞさびし」とあり、横笛は滝口が自分のことを思ってくれる思いはうれしいが、その情熱が冷めたときがさみしくはあるものの相手の思いを受け入れようとしている。
※以下の類題に挑戦しよう。
問 次の文章は、『建礼門院右京大夫集』より抜粋したものである。後の問いに答えよ。
乳母、文緒ばかりにて、女院の御所に参りける。滝口が心のうち、物語などして、泉殿の立石の陰にて、おもしろしきを次を待ち奉りしが、伊勢物語などいまだ若くましましければ、言の葉の品をば、御後にやさしからむと、御間かせ候へと、言ひけれど、横笛、御文を給ひてけり。
その後、滝口が文を給ひてよりは、横笛をば絶えはてぬれば、いかなる音信もなし。さりとて、人の上になどいふべくもあらず、いふかひなくて、まことにも心をばやりはててけりと、ささめき給ふもをかし。
されば、われもはや、この思ひを絶たむと、年ごろ思ひめぐらして、この度はさすがに心とゞむるべくもあらずと、思ひ定めてけり。さるに、夜ごと、胸うち騒ぎて、涙を流すこと限りなし。いかでか、思ひ絶たんと、梅の立枝の露の、風に揺るるをながめて、
世の中に こゝろを澄ます 沢水に 静かなる浪の 底よりぞ見し
と詠みける。
問1.主人公が、恋人からの音信が絶えた状況で詠んだ和歌の表現には、どのような自然の情景が用いられ、その情景を通じてどのような複雑な心境を表出しているのか。情景と心境の関係に着目し、70字以上80字以内で説明せよ。(句読点も一字に数える)
《現代語訳》
(主人公である右京大夫が)乳母や文緒だけを連れて、建礼門院のお住まいに参上していた。(かつての恋人である)滝口(の出家後の名前)が心の内を打ち明けて、昔の話などをしながら、泉殿の庭の立派な石の陰で、興味深い話の続きを待っていたところ、滝口はまだ年若くいらしたので、『伊勢物語』などの歌物語の言葉遣いは、自分よりも(経験を積んだ)御後の方が上手だろうから、任せたい、と申し上げるが、横笛(滝口の恋人)に宛てた手紙を受け取ってしまった。
その後、滝口がその手紙を受け取ってからは、横笛との交際は完全に途絶えてしまい、どのような音沙汰もありませんでした。そうではあるが、人の身の上について(横笛の不実を)あれこれ言うわけにもいかず、(滝口との関係を)諦めざるを得ないので、本当に(横笛への)心を諦めてしまったのだなと、人々がひそひそと噂しているのも興味深いことです。
そこで、私ももう、この(横笛への)思いを断ち切ってしまおうと、長年考えを巡らしてきましたが、今度こそはさすがに未練を残すわけにはいかないと、心に決めたのでした。しかし、毎晩、胸がざわつき、(横笛のことを思って)涙を流すことは止まりません。
どうにかして思いを断ち切ろうと、(春の夜、庭の)梅の枝の露が風に揺れているのをぼんやりと眺めて、
「世の中に心を澄ます沢水に静かなる浪の底よりぞ見し(この世で清らかに心(=恋心)を澄ましている沢の水の底に、静かな波となって、底深くから(あなたのことを)見つめていますよ)」
と詠んだのでした。
《解答》
問1. 清らかで澄んだ沢の水の底に、心が揺れ動く波のように見えているという情景を通じ、諦めようとしながらも心の底で恋しい思いが静かに絶えず波打ち、その思いを誰にも知られず深く秘めている複雑な心境を表出している。(80字)
攻略ポイント
小説、論説文、古文と全てのジャンルからの出題であり、出題形式も選択肢問題、記述問題と万遍なく出題されている。特に、記述対策はしっかり行っておくこと。20字程度で記述する練習を行うことはいうまでもないが、本文内容をそのような字数でまとめる要約力も磨かなければならない。また、論説文などの内容把握においては、正確で迅速な読解力が求められる。日頃の学習の中で、時間を決めて解答するという練習をしっかり行い、時間内で正確に解答できる「技術」を身に付けることが重要である。また、知識問題として、漢字、文学史、古語知識なども確実に押さえておくこと。