協力関係があるところには、必ず裏切り者が生まれる。生物における協力関係についても同じだ――｢生命｣と｢非生命｣を分かつものは？ 進化生物学の最新研究による｢私たちの起源｣と｢複雑化の過程｣について説明している。本文では、農耕社会とともに家族以外との協力関係や分業が始まったが、それを可能にしたのは｢ヒト｣の持つ信頼と助け合いの精神だと述べている。分かりやすい文章なので、内容は理解できるはずだ。本校としては標準的な、多種多様な小問が並び、最後にお約束の｢長文自由論述｣が待ち構えている。以下、いくつかを検討してみる。

[問１]　｢漢字の書きとり｣(全３問)。本文中の二重傍線部(Ａ)～(Ｃ)の｢カタカナ｣を｢漢字｣に直す。本年度はいつになく平易だ。本校志望者は全問正解が必須。｢答え｣だけを確認する。(Ａ)｢この本もシュッパン社や印刷業者や……｣＝｢出版｣。(Ｂ)｢(チンパンジーは)チノウもヒトの幼児よりも高い｣＝｢知能｣。(Ｃ)｢ふるまいもカンサツされ｣＝｢観察｣。ひとつでも曖昧(あいまい)なものがあった諸君は猛省せよ。
＜時間配分目安：全問で30秒＞
[問２]　｢語句の意味の選択肢｣(全３問/各５択)。｢総合的知識問題｣｡波線部(ａ)｢産物｣･(ｂ)｢相乗｣･(ｃ)｢必需品｣の｢本文中での意味｣を答える。これらの｢原意｣(本来の意味)に忠実に判別すれば何の問題もないはずなのだが、｢本文中での意味｣を意識し過ぎると間違ってしまう可能性があるので、要注意。それぞれ確認する。｢産物｣＝｢その土地で産する物品、あることが背景となってうみ出されたもの｣なので、(ａ)の｢答え｣＝選択肢(エ)｢さまざまなものから生み出される結果｣⇒｢名産物｣ではないので、(オ)の｢その土地ごとに生み出される名物｣と勘違いしないこと｡｢相乗｣＝｢２つ以上の数を掛け合わせること、２つ以上の要素が相互に効果を強めあうこと｣⇒(ｂ)の｢答え｣＝(ウ)｢二つ以上の要素が相互に効果を強めあうこと｣。｢必需品｣＝｢なくてはならない品物｣⇒(ｃ)の｢答え｣＝(ア)｢ある事をするのに欠かせない品｣になる。こうした｢語句の意味｣では、｢設問｣に惑わされずに｢原意絶対優位の原則｣を徹底させること。
＜時間配分目安：全問で１分半＞
[問４]　｢脱文挿入選択肢｣(５択)｡示されている、本文から抜けている一文｢それも、毎日の食料を探しながらです｡｣が｢入るべき位置｣を、本文中の(Ⅰ)～(Ⅴ)のうちから選んで答える。｢脱文挿(そう)入｣では｢接続詞、指示語、そして、内容｣に着目すること。ここでは｢それ｣という｢指示語｣がある｡この｢一文｣の直前で｢毎日の食料を探しながら、何かをする｣ことについての説明があるはずだ。それぞれの候補を確認すると、(Ⅱ)の直前に｢病気やけがをすれば自分たちで治療しなければいけません｣とある。まさに、｢毎日の食料を探しながらでも、すべき何か｣だ。他の候補にはそうした内容はない。したがって、｢答え｣は(Ⅱ)だ。｢脱文挿入｣では､｢挿入候補｣に必ず｢代入確認｣をして、丁寧に確認することが肝要。
＜時間配分目安：１分半＞
[問７]　｢内容説明不適切選択肢｣(５択)。傍線部③｢人類の発展｣について、｢その結果『ヒト』に起こった変化｣として、｢ふさわしくないもの｣を答える。｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡ここは｢内容説明｣なので、｢発展｣の｢原意｣に結びつかない｢変化｣の内容を｢消去｣していきたい(無論、｢不適切選択肢｣なので｢消去｣すべきものが｢答え｣になる)。各選択肢の｢文末｣と照合する(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)｡(ア)｢仕事を分担して行うことができるようになった｣､(イ)｢家族以外のものに治療を頼めるようになった｣､(ウ)｢知識や情報を一部の人間が独占するようになった｣､(エ)｢技術が継承されやすくなっていった｣､(オ)｢長生きできるようになった｣｡｢発展｣は｢プラスの方向｣なので、｢一部の人間が独占｣は｢消去｣できるはずだ。よって、｢答え｣は(ウ)だ｡何と｢一発消去｣だ。｢原意消去｣を完全に習得し、十分に活用すべし。
＜時間配分目安：１分以内＞
[問８]　｢条件付き理由説明記述｣(｢41～50字以内｣指定)。傍線部④｢ヒトはどうして血縁のない他人を信頼できるのでしょうか｣について、｢筆者はその理由をどのように述べているか｣を｢41字以上50字以内｣で説明する。｢条件｣は｢本文中の言葉を使って説明する｣こと。傍線部の次文には｢次にこの点を考えてみたい｣とある。ということは、筆者はこれ以降で｢理由｣を述べているわけだ。｢同一意味段落｣から読み解いていく(｢説明文｣｢論説文｣では｢同一意味段落｣に｢手かがかり･根拠｣がある)。範囲は本文の最後までだと判断できる。そして、最後から２段落目が｢このような｣で始まり、次段落が｢さらに｣と続くことから、これらの２つの段落が｢まとめ｣だと判別できるはず。そこでは、｢信頼の精神は、ヒトの持つ特殊な心のおかげ｣で｢具体的にはヒトの持つ高い共感能力による｣、また、｢相手の気持ちを想像できることで助け合いの関係が生まれことから、信頼関係も生まれる｣と説明されている。これらが｢筆者が述べている理由｣になる。あとは、｢過不足なく｣まとめていけばいい。たとえば、｢ヒトは他人への高い共感能力を持っており、相手の気持ちを想像できることで助け合いの関係が生まれから｡｣(49字)といった｢答え｣だ。｢同一意味段落｣では、冒頭で｢問題提起｣をして最後にその｢答え｣が述べられることが多いと心得よ。
＜時間配分目安：３分弱＞
[問10]　｢条件付き自由論述｣(｢101～120字以内｣指定)。傍線部⑤｢相手との信頼関係が生まれます｣について、｢あなたは相手との信頼関係築くために今までどのようなことを行ったことがあるか｣を｢101字以上120字以内｣で論述する。｢条件｣は｢本文の内容をふまえた上で、あなたのとった行動とその行動をとる際に心がけたことを述べる｣こと。｢あなたが行ったこと｣なので何を述べてもいいのだが、何でもいいとなると逆に困ってしまうはず。そこで、｢条件｣を｢手がかり｣にする。傍線部の｢本文の内容｣は、[問８]で考えたことにつながってくると分かるはず。つまり、｢他人への高い共感能力と、相手の気持ちを想像することで助け合いの関係が生まれ、信頼関係が生まれる｣。したがって、あなたが今までに｢友達などに共感し、その相手の気持ちを想像して助け合った経験｣を何か思い浮かべるといい。そして、そうしたことを｢とった行動｣→｢その際心がけたこと｣という｢流れ｣で述べていけばいいわけだ。本校定番の｢自由論述｣では、｢問題文｣や｢条件｣を｢手がかり｣として、そこから｢あなた自身の考え｣をふくらませていくことが求められている。また、本校では｢小問｣どうしが関連していることが多い。そのことにも留意したい。
＜時間配分目安：５分＞

鋼(はがね)と火だけを相手に、人生の大半を過ごしてきた鍛冶(かじ)職人｢六郎(ろくろう)｣の前に現れたのは、澄んだ瞳をした鍛冶屋になりたいという12歳の少年｢浩太(こうた)｣だった――年老いた鍛冶職人は少年を、いかに育てたのか？……。本文では、進学するように｢浩太｣を説得してほしいと教師と母親から頼まれた｢六郎｣が、昔親方と登った山に彼を連れ出す様子が描かれている。｢前説｣や｢中略｣部分の｢あらすじ｣が記されており、ストーリーは分かりやすい。オーソドックスな設問内容が中心だが、｢解釈問題｣でややユニークなものがある。それを含めて、いくつかの｢設問｣を確認する。

[問２]　｢状況説明選択肢｣(５択)。傍線部①｢六郎は親方にそう言われた日がつい昨日のように思えた｣について、｢このときの『六郎』を説明したもの｣を答える。無論、先ずは｢原意消去｣だが、その前に｢指示語｣があるので開いておく(｢指示語｣が出たら即開くこと)｡直前から、｢そう言われた｣＝｢『ロク、この(滝の)水が鍛冶の神様や。よう覚えとくんや』と言われた｣だと分かる。それを踏まえて、｢親方にそう言われた日がつい昨日のように思えた｣という表現の｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣する。各選択肢の｢文末｣を確認したい｡(ア)｢親方の自分に対する愛情を改めて実感している｣､(イ)｢自分を情けなく思っている｣､(ウ)｢浩太と自分が全く違う人間であることを感じている｣､(エ)｢自分に満足している｣､(オ)｢自らの義務を果たせたと思っている｣｡｢親方の言葉｣を改めてかみしめている｢状況｣なのだから、(ア)以外は即｢消去｣できなくてはいけない。念のために他の部分の説明が誤っていないかを、｢同一場面｣で確認する(｢小説｣では｢同一場面｣の｢直前直後｣に｢手がかり･ヒント｣がある)。問題ないと分かるはず。よって、｢答え｣は(ア)でいい。やはり、｢原意消去｣は使える！
＜時間配分目安：１分弱＞
[問４]　｢内容説明記述｣(｢51～60字以内｣指定)。傍線部③｢砂鉄を集めて火の中に入れてやると鋼ができる｣について、｢六郎はどういうことを伝えるためにこのことを述べていると考えられるか｣を｢51字以上60字以内｣で説明する。無論、｢伝える相手｣は｢浩太｣だとすぐに分かる。｢手がかり｣を｢同一場面｣に求めていく。すると、17行前からの部分で、｢六郎｣自身が｢親方｣から同じことを言われていたことが読み取れる。そこには｢ちいさな砂鉄をひとつひとつ集めて(鋼の中で最上の)玉鋼は生まれる。親方はちいさなものをおろそかにせずひとつひとつ集めたものが一番強いということを少年の六郎に言って聞かせた｣とある。こうしたことを｢六郎｣は｢浩太｣にも伝えたかったと判断できるはずだ。こうした内容を｢鋼｣を通じて｢伝えたいこと｣としてまとめていきたい。たとえば、｢どんな小さなことでもおろそかにせずにひとつひとつ積み重ねていくことで、すばらしい結果が出せる強い人間になれるということ｡｣(60字)といった｢答え｣になる。｢小説｣では、｢同一場面｣の｢文脈｣を丁寧に読み解いていくことが肝要だ。
＜時間配分目安：３分＞
[問５]　｢内容解釈不適切選択肢｣(５択)。傍線部④｢そうしてちいさな石を浩太に差し出した｣について示されている｢生徒の感想｣で、｢本文の解釈としてふさわしくないと考えられるもの｣を答える。あまり類例のない設問内容だ。惑わされないようにしたい。｢同一場面｣の｢文脈｣から正確に｢状況｣を読み取り、その｢解釈｣として｢ふさわしくないもの｣を判別するということだ。直前で｢浩太｣は｢六郎｣に礼を言い、｢六郎｣が｢礼なぞ水臭(みずくさ)い｣と答えて、｢ちいさな石を差し出した｣ということが分かる。そして直後から、その｢石｣は｢鉄鉱石｣だと分かり、｢六郎｣の話が｢みやげに持っていけ｣｢いつかお前が大きゅうなったら、この山をもう一度登るとええ……｣と続いている。こうした｢状況｣の｢解釈｣としての、各選択肢の｢感想｣の正誤判別をすると、(イ)の｢『お前は立派な鍛冶職人になるんだぞ』という意味が込められている｣が不適切だと判断できるはず。｢いつかお前が大きゅうなったら……｣と｢六郎｣が言っているということは、｢浩太｣は｢鍛冶職人にはならない｣ことが明白だからだ。したがって、｢答え｣は(イ)になる。馴染みのない問題であっても、習得した｢解法｣を臨機応変に適用していくこと。
＜時間配分目安：２分＞

｢要約問題｣(｢小問｣は全２問)｡[問１]は示されている本文の【要約文】中の｢空所補充｣で｢抜き出し｣の出題形式(３問)。本文自体が｢約160字｣と短く､空所前後の｢文脈｣と本文とを照合すれば、通常の｢抜き出し設問｣として難なく答えられるはずだ。[問２]も｢空所補充｣の形式だが、実質的には｢要約記述｣となっているので、本問だけを考えてみたい。　

[問２]　｢空所補充の要約記述｣(｢51～70字以内｣指定)｡示されている本文の【要約文】中の｢空所部｣を､｢文中の言葉を用いて51字～70字以内｣で完成させる。そもそも｢要約｣とは｢文章の論旨･要点を約(つづ)める(＝短くまとめて表す)こと｣だ。そのことを意識して、【要約文】を確認する。２つの段落になっていて、１段落目が｢本文前半｣の｢要約｣だとすぐに判断できる。空所部は２段落目で｢一九八〇年代前半のアフリカにおいて、旱魃(かんばつ)や内戦などにより、　　　　 　　結果、『アフリカ＝飢餓と貧困』のイメージが日本人の心に染みつき｣となっている。｢本文後半｣と照合すると、｢一九八〇年代前半｣に｢多数の難民や死者｣が出て、｢世界規模のアフリカ飢餓救済キャンペーンが展開｣され、｢日本でもアフリカ支援を目的とするＮＧＯが数多く誕生｣したことから、｢『アフリカ＝飢餓と貧困』のイメージ｣が染みついたとなっている。こうした内容が｢空所部｣にあてはまると分かる。したがって、たとえば、｢多数の難民や死者が出て、同じ時期に世界規模のアフリカ飢餓救済キャンペーンが展開され、日本でもアフリカ支援を目的とするＮＧＯが数多く誕生した(結果)｣(69字)といった｢答え｣になる。尚、｢論説文｣の｢要約｣は｢論旨｣中心にまとめていくのが鉄則。よって、｢序論部分｣＋｢結論部分｣＋｢本論部分からの補足｣が基本的なまとめ方になると心得よ。
＜時間配分目安：４分＞