生後間もなく里子に出され、生家に戻ってからも、母、祖母に疎まれ、兄の｢恭一｣や弟の｢俊三｣となじむことができない｢次郎｣､ひねくれて反抗的になりがちな彼を支えてくれるのは父の｢俊亮｣だけだったが、やがて一家は没落……｡

作者の自伝的要素を交えて一人の少年の生き方を描く長編小説｡本文では、｢母方の実家｣の庭で、老レグホン(鶏の品種)に若い地鶏が立ち向かう様子を見た｢次郎｣が、ある決心をして実行しようとする姿が描かれている。

内容は分かりやすいが、｢心情描写｣や｢情景描写｣を丁寧に読み取る必要がある。多種多様な｢設問｣が並び、最後に｢長文自由論述(創作)｣が待ち構えている。
以下、いくつかを確認してみる。

[問一(ア)]　｢語句の用例の選択肢｣(４択)。｢総合的知識問題｣｡｢語句の意味｣｡

示されている｢例文｣の中で、二重傍線部(ア)｢おおぎょうに｣と｢同じ意味で用いられているもの｣を答える。

｢おおぎょう(大仰)｣＝｢大げさ｣｢大がかり｣ということは知らなくてはいけない。
ここでは、｢おおぎょうにさけんだ｣と用いられているので、前者の意味だ。

各選択肢を確認すれば､ (４)の｢受賞の祝賀会は、あまりおおぎょうにせずに親しい人たちだけで行いたい｣が｢答え｣だと分かる｡
本校では、｢高度な語彙力｣が求められると心得よ。

＜時間配分目安：30秒＞

[問五]　｢心情説明選択肢｣(複数完全解答/６択)。

傍線部(問五)｢彼は、自分の目が、溶鉱炉のように熱くなり、なみだが氷のようにまぶたにしみるのをおぼえるのである｣について、このときの｢次郎の気持ち｣を｢三つ｣答える。

本校にしては珍しい｢複数の心情｣を同時に読み取る問題だ。先ずは｢原意｣から考えたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡
ここは｢心情説明｣なので、｢原意｣から｢心情｣を読み取れる傍線部の｢表現｣を｢三つ｣に絞り込む。

｢溶鉱炉のように熱くなり｣､｢なみだ｣､｢氷のようにしみる｣の｢三つ｣だと気づくはずだ。
｢比喩表現｣も含め、これらの｢原意｣と｢心情｣とを結びつけていきたい。各選択肢の｢文末｣を確認する(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)。
(１)｢怒り｣､(２)｢つらさ｣､(３)｢さげすみ｣､(４)｢さみしさ｣､(５)｢くやしさ｣､(６)｢あきらめ｣｡どうだろうか？

　｢熱くなり｣＝｢怒り｣､｢氷のようにしみる｣＝｢つらさ｣だと捉えられる。
ただ、｢なみだ｣については、｢さみしさ｣と｢くやしさ｣で迷うところだ。そこで、傍線部の直前直後を確認する(｢小説｣では｢同一場面｣の｢直前直後｣に｢根拠･手がかり｣がある)｡
直前に｢そんなときの次郎の無念さといったらない｣とある。であれば当然、｢くやしさ｣だ。

したがって､｢答え｣は(１)(２)(５)になる。
｢ひとつの描写｣から｢複数の心情｣を読み取る。今後も出題の可能性があるので、要チェックだ。

＜時間配分目安：２分以内＞

[問六]　｢具体的心情内容抜き出し｣(｢20字以内｣指定)。

傍線部(問六)｢ふたりの気持はたいていぼくにわかっている｣について、｢ふたりの気持｣とは｢具体的にはどのような気持か｣を本文中から抜き出して｢二十字以内｣で答える。

｢抜き出し設問｣では、先ずは｢抜き出すべき内容｣を特定してから｢抜き出し範囲｣を絞り込んでいく。ここでの｢状況｣を確認したい。

｢ぼく｣＝｢次郎｣だが、｢ふたり｣とは誰か？　直前からすぐに｢祖母｣と｢母｣だと分かる。そして、直後には｢わかっているから､ぼくはなるべく家にいない工面をしている｣とある。
つまり、｢抜き出すべき内容｣は､｢次郎｣に｢なるべく家にいない工面｣をさせている｢祖母｣と｢母｣の｢気持｣ということだ。

次に｢抜き出し範囲｣だが、｢小説｣なので無論、｢同一場面｣になる。確認すると、すぐ前の段落に｢(祖母と母)は、ぼくが家にいると、ふた口めには､この子さえいなかったら苦労はないが、という｡だからぼくはなるだけ家にはいないことにしているんだ｣という説明がある。｢内容｣が結びつく。

｢字数｣を考慮すれば、｢答え｣は｢この子さえいなかったら苦労はない｣だと特定可能だ。

｢抜き出し設問｣では｢範囲｣を絞り込むことが肝要。あてどもなく探していては単なる時間の浪費だ。

＜時間配分目安：２分＞

[問八]　｢心情説明選択肢｣(４択)。

傍線部(問八)｢しかし、二回とも地鶏の歩がわるかった。次郎は思わず腰をうかして、『ちくしょう！』とさけんだ｣について、このときの｢次郎｣の｢説明｣を答える。

｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則。先ずは｢原意消去｣から｡
｢心情説明｣なので、｢ちくしょう！｣の｢原意｣と結びつかない｢心情｣を｢消去｣していくことになる。
各選択肢の｢文末｣は､(１)｢意気ごんでいる｣､(２)｢腹を立てている｣､(３)｢くやしく思っている｣､(４)｢いかくしようとしている｣｡

当然、｢ちくしょう！｣なのだから(３)以外は｢消去｣できなくてはいけない。(３)は前半の説明も特に誤っていない。よって､｢答え｣だ。

｢一発消去｣｡｢選択肢設問｣では｢原意消去｣が必須。

＜時間配分目安：30秒＞

[問十三]　｢心情説明選択肢｣(４択)。

傍線部(問十三)｢彼はしだいになんとかしなければならないような気がしだしてきた｣について、それは｢なぜか｣を答える。

この段階で｢原意消去｣(｢理由説明｣なので｢直接的理由｣での｢消去｣)をしたいが、何を｢なんとかしなければならない｣のかが不明なので、さすがに無理だ。そこで、直前直後を確認する｡
前文に｢真智子のしょんぼりした姿が、どうしても彼をおちつかせなかった｣とある。つまり、｢真智子のしょんぼりした姿｣が､｢なんとかしなければならないような気｣になる｢きっかけ｣(＝｢直接的理由｣)だったと判断できるはずだ。

各選択肢を確認する。｢真智子｣について触れられていない(１)(３)は即｢消去｣で構わない。残りの(２)は｢真智子に悲しい思いをさせたくなかったから｣､(４)は｢真智子の期待を裏切りたくなかったから｣となっている。

｢真智子｣は｢しょんぼり｣していたのだから、(２)が｢答え｣となる。

｢動作｣や｢心情｣などの｢きっかけ｣は､その｢直接的理由｣と密接につながっているのでしっかりと捉えることが肝要。

＜時間配分目安：１分半＞

[問十六]　｢空所補充選択肢｣(４択)。

本文中の空所に｢はいるもの｣を答える。

｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣(｢傍線部｣や｢空所部｣が｢一文の一部分｣である場合、｢傍線部｣や｢空所部｣以外が｢重要な手がかり･ヒント｣)で前後を確認する。
｢恭一は、もう   　　　     ような気がしていたのである｣となっている。｢恭一｣は｢どうなのか｣という内容が入るわけだ。
前文を確認すると｢恭一とけんかをしてみようなどという気は、そのときには､彼の心のどのすみにも残っていなかった｣とある。

各選択肢は､(１)｢いばったりはしない｣､(２)｢彼の相手ではない｣､(３)｢真智子には近づかない｣､(４)｢いじめられることはない｣｡どうだろうか？　

｢けんかをしてみようなどという気は｣｢残っていなかった｣のだから、｢けんか｣の｢相手ではない｣という(２)が｢答え｣だと判別できるはずだ。

前後の｢文脈｣を的確に把握して判断することが重要。

＜時間配分目安：１分＞

[問十八]　｢条件付き自由論述(創作)｣(｢180字以内｣指定)。

｢この文章の後に続く『次郎』の物語｣を｢百八十字以内｣で｢創作｣する。｢条件｣は｢必ず『祖母』と『母』を登場させる｣こと。

本校の｢定番｣にして｢最難関｣の｢自由論述｣。
本年度は､｢小説｣の｢続き｣を｢創作｣するというものだ。｢自由論述｣であり｢創作｣なので、無論、どのような｢物語｣を紡ぐかは自由。だが、｢自由……､自由｣といわれても、雲をつかむようで何も浮かばないはずだ。何か｢手がかり｣がほしい。

当然、最大の｢手がかり｣は｢本文｣(描かれている｢次郎｣をめぐる様々な｢物語｣)ということになる。そして、｢条件｣だ。｢『祖母』と『母』を登場させる｣ということは、この２人と｢次郎｣との関係性に注目して｢創作｣するわけだ。

｢本文｣最後のエピソードを踏まえ、｢恭一｣への対応も変化している｢次郎｣の成長、そうした彼に｢祖母｣と｢母｣はどのように接していくことになるのかを想像し｢物語｣を｢創作｣していきたい。

尚、｢本文｣の｢続き｣なので、｢文体｣や｢表現方法｣などをできるだけ｢本文｣に合致させておきたい(そうした細かな配慮が不可欠)｡｢自由論述｣は必出｡
本校志望者は、｢設問自体｣や｢条件｣などを｢手がかり｣｢ヒント｣にして、｢考え｣や｢創作｣を｢180字以内｣でまとめる練習を重ねておくこと。

＜時間配分目安：６分＞

｢自分自身｣や｢社会｣｢政治｣｢国家｣｢世界｣のこと……、考えなくてはいけないのに、考えようとすると、どう考えたらいいか分からなくなり前に進めなくなってしまう――こんな時代だからこそ、現在の｢哲学｣は何をすべきなのかを縦横無尽に考察している。

本文では、そもそも｢考える｣とはどういうことなのかを論じ、自分自身で｢考える｣ことが難しい現代へ警鐘を鳴らしている。｢哲学論｣ではあるが、随筆風に語られており短いものでもあるので内容は分かりやすい。
小問３題は全て｢説明記述｣だが、前大問最後の｢長文自由論述｣を終えたばかりの受験生であれば、クールダウンといった感じで軽くこなせるはずだ。１問だけ、検証してみよう。

[問一]　｢論旨説明記述｣(｢30字以内｣指定)。

｢この文章全体の内容をふまえ｣て、筆者が言っている｢『考える』とは｢どのような行為か｣を｢三十字以内｣で説明する。

本文の｢テーマ｣自体が｢『考える』ってどういうことなのか｣であり、｢文章全体の内容をふまえ｣るのだから、要は｢論旨説明｣ということだ。
通常、｢論説文｣での｢論旨説明｣は｢序論部｣と｢結論部｣を中心にしてまとめることになるが、短文なので各形式段落を確認して､｢『考える』とは何か｣を論じている部分をつなげていきたい。

３段落目に｢『待つこと』こそ、考えること｣、５段落目には｢問いの観点から、すべてを見､すべてを聞く｣｢思わぬものが問いに結びつき、答えのヒントになる｣とある。こうした要素を｢過不足なく｣まとめていけばいい。

たとえば、｢問いの観点からすべてを見聞し、答えに結びつくまで待つ行為｡｣といった｢答え｣になるはずだ。

｢論説文｣で｢文章全体の内容をふまえ｣と問われたら、｢論旨説明｣だと心得よ。

＜時間配分目安：２分半＞

 ｢総合的知識問題｣(全２問/｢５択｣と｢９択｣)。

意表をつかれた昨年度の｢敬語｣から一転、定番の｢文法｣問題。
示されている(１)(２)各文の｢二重線部｣が｢修飾している｣部分をそれぞれ答える。

｢文節相互関係｣の｢修飾･被修飾関係｣の問題だ。例年になく平易だ。｢全員正答｣が必須。一応確認しておく。

(１)｢三年後､(ア)私たちの(イ)学校は(ウ)創立(エ)百五十年を(オ)むかえます｣⇒｢三年後｣→｢むかえます｣なので、｢答え｣は(オ)､
(２)｢昨日､(ア)私が(イ)公園で(ウ)見つけた(エ)ウメの(オ)つぼみは(カ)今日は(キ)もう(ク)ほころんで(ケ)いた｣⇒｢昨日｣→｢見つけた｣なので、｢答え｣は(ウ)｡

本年度は例外的に易しかったが、決して油断することなく、｢定番｣の｢文法｣も含め、あらゆる｢知識｣を習得しておくこと。

＜時間配分目安：１分半＞

｢漢字の読み書き｣(全８問)。
傍線部(１)～(５)の｢カタカナ｣を｢漢字｣に直し、(６)～(８)の｢漢字の読み方｣を｢ひらがな｣で答える。

平易だった昨年度に比してやや難しくなったが、本校にしては例年並みだ。
注意すべきものとしては、
(１)｢モゾウヒンが出まわる｣(＝｢模造品｣)、
(５)｢マクがあがる｣(＝｢幕｣)、
(６)｢徳川の治世｣(＝｢ちせい｣)､
(７)｢禁物｣(＝｢きんもつ｣)､
(８)｢白昼夢｣(＝｢はくちゅうむ｣)。

｢漢字｣に関しては、絶対に｢抜け落ち｣がないようにすること。