慶應義塾高等学校 入試対策
2025年度「慶應義塾高等学校の国語」
攻略のための学習方法
出題されているような論理的な文章を短時間内に理解する読解力を身につけるためには、日頃から物事を自分の頭で考える習慣が不可欠である。自分の頭で考えるということは、ある事象に対する判断の基準を「その場で思いついたひらめき」や「自分の好き嫌い」に求めるのではなく、自分が導く結論に対して「説得力ある論理展開」を行っているかどうかの要素が不可欠である。それでは「説得力」とは何か。一言でいうならば、誰が聞いても「納得できる」ということである。ある主張に対して自分の結論は、「賛成」でも「反対」でも構わない。
大事なことは結論がどうであれ、その結論に至る「論理プロセス」の成熟度である。このようなスキルは、試験の2週間前位に一夜漬け的に知識を詰め込んでも、合格点には届かないだろう。
まずは自分の頭で考える。そして、次の段階では「頭で考えたこと」を「自分の言葉で書き出す」訓練である。人間は、頭で考えたことが100だとすると、それが発言すると10になり、文章で表現するとわずか1になってしまうと言われている。それだけ、自分の考えを言葉として文章表現することの難しさを端的に表しているのだろう。各出版社が発行している新書を読むのも論理的文章に親しむには効果的である。大きく分類すれば、自然科学系、社会科学系と分れるが、どの分野の新書を読むかは、基本的には「自分の好み」に基づいて選択すればいいだろう。ただ、文字だけを表面上で読むのではなく、じっくり筆者の論理展開を辿っていく姿勢が大事である。余裕があれば、要旨を紙に書き出してみるということも効果的である。そのように、自分の考えをまとめあげる作業を行えば、必ず自身の論理的思考力を着実に高めてゆくことが可能となるだろう。
慶應義塾高校入試問題では、かなりの割合で知識問題が出題される。漢字の書き取り・読み、国文法(動詞の活用形、助詞)、文学史などである。現古融合問題の場合は、古文に対する現代評論文が出題される。古典文法の知識は欠かせないのは言うまでもないが、その古典作品に関する現代評論を読み解く力は現代文の読解力である。特に、現代文、現古融合の問題で扱っている話題が、言語論や芸術論の場合には性質上書かれている内容が抽象的にならざるを得ない。そのような抽象的文章を読み慣れていないと、試験当日に初見でそのような文章を読み解くことは不可能であろう。ただし、そのような文章でも攻略するための手掛かりは必ずあるものである。
例えば「キーワード」。何度も繰り返されている単語や表現があるかどうか。そのような単語があればチェックを入れ、本文全体の流れの中でその「キーワード」がどのような役割を担って使用されているかを考察すれば、論理の組み立てを正確に把握することができる。また「接続詞」も大事である。接続詞を丁寧に辿ることにより、段落ごとの筆者の主張の流れの概略を理解することができる。
いずれにしても、論理性の高い文章の内容把握を正確に行うために、日頃から「自分の頭で考える」ことを念頭に置き、考えたことを「文章にまとめてみる」という学習習慣を身につけて欲しい。そのような作業を通じて、自分の理解力と表現力のレベルが認識できるものである。
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2025年度「慶應義塾高等学校の国語」の
攻略ポイント
特徴と時間配分
大問1は、倫理に関する哲学的分野の読解問題<21分>。
内容把握問題や記述問題(30字)、漢字書取り(5題)が出題されている。正確な文章読解力・的確な記述力が求められる。
大問2は、文学に関する論説文の読解問題<39分>。
内容把握、漢字書取り(5題)、四字熟語なども、今後、出題が大いに予想されるため事前準備をしっかり行うこと。特に、知識問題の比重も高いので文学史や慣用句なども習得しておくように。
【大問1】倫理に関する哲学的分野からの論説文の読解問題
- 時間配分:21分
出典は、伊藤亜紗著『手の倫理』。
問1は、表現問題である<2分>。
「説明した」ではなく「説明を試みました」とすることで、倫理的姿勢を表している。
問2は、内容把握問題である<2分>。
「困っている人がいたら助けましょう」は、「小学校の道徳の授業で習うような…絶対的で普遍的な規則」であるので、「人」とは「人間一般」のことである。
問3は、内容把握問題である<2分>。
「絶対的で普遍的な規則」であるので「道徳」である。
問4は、内容把握問題である<3分>。
「絶対的で普遍的な規則」である「道徳」とは違って、「倫理」は「現実の具体的な状況で人がどう振る舞うかに」かかわる規範であるからである。
問5は、内容把握問題である<2分>。
直後の「さまざまな状況(=具体性)」と対極に位置する概念を選択する。
問6は、内容把握問題である<2分>。
「道徳」は「絶対的で普遍的規則」であるのに対し、「倫理」は「状況によって変化」するもの、つまり「個別」の視点で考察するのである。
問7は、内容把握問題である<2分>。
「道徳」における「価値」とは、「絶対的で普遍的な規則」のことであり、「価値」を生きるとはそのような「規則」に従って生きることである。
問8は、語句問題である<1分>。
「すべきだができない」とは、二律背反の状況であるので「ジレンマ」のことである。
問9は、語句問題である<1分>。
「逡巡」とは「ためらい」のことである。
問10は、内容把握問題である<2分>。
息子は「道徳」を信じているので、母親のとった行動(物乞いの女性を避けた行動)に対して「パニック」を起こしてしまったのである。母親の懸命な説明も息子にはまったく届かなかったのである。
問11は、漢字の書き取り問題である<2分>。
「定」「領域」「画一」「貧困」「水準」である。
※以下の類似問題に挑戦しよう。
問 次の文章を読んで後の問いに答えなさい。
現代は、膨大な「データ」が私たちの行動を左右する時代となった。ビッグデータ解析によって、私たちは個人の行動パターンから社会全体の動向まで予測できるようになった。
しかし、ここで混同してはならない概念がある。それは「情報」(Information)と「知恵」(Wisdom)の区別である。
データは、単なる事実の羅列や観測値であり、それ自体には意味や価値はない。このデータが特定の文脈や規則によって整理され、[ A ]に供されることで、初めて「情報」となる。例えば、単なる気温の数値はデータだが、「昨日の最高気温は平年より5度高い」という分析は情報である。情報は、私たちの知識を増やし、問題解決の手段となる。
一方で「知恵」とは、その情報を用いて、何が人間にとって真に価値あることか、何が[ B ]べきことかという、価値判断や目的設定を行う能力を指す。データや情報がどれほど豊富になったところで、人類が「知恵」を失えば、テクノロジーは単なる凶器と化してしまうだろう。筆者は、現代の人間が大量の情報を処理する能力(理性の働き)には長けているが、その情報をどのように[ C ]すべきかという判断力(知恵)を失いつつあることに、強い懸念を抱いている。
問1.空欄[A]、[B]、[C]に入る語句の組み合わせとして最も適切なものを次から選びなさい。
1. A: 分析、 B: できる、 C: 享受
2. A: 蓄積、 B: 試みる、 C: 活用
3. A: 意味づけ、 B: すべき、 C: 判断
4. A: 伝達、 B: 存在する、 C: 記憶
問2.最終段落にある下線部「テクノロジーは単なる凶器と化してしまうだろう」と筆者が述べる背景には、どのような認識があるか。50字以内で述べなさい。
問3.筆者が「知恵」(Wisdom)という語をあえて括弧書きのローマ字で記している理由を、漢字二字で抜き出しなさい。
《解答》
問1.3
問2.情報が豊富になっても、その情報を人間の真の価値のためにどのように用いるべきかという知恵を失いつつあるという認識。
問3.区別
【大問2】文学に関する言語的分野の論説文読解問題
- 時間配分:39分
出典は、尼ケ崎彬著『日本のレトリック』。
問1は、漢字の書き取り問題である<2分>。
「青磁」「局」「末座」「詞書」「土俵」。
問2は、文学史問題である<2分>。
『枕草子』は平安時代の末期に書かれた作品である。その頃、中国(北宋)では、印刷術が発展し書物がこれまで以上に普及したのである。
問3は、内容把握問題である<2分>。
「何一つ~ない」という強い「否定」を表すのは、「ただ」という副詞である。
問4は、内容把握問題である<6分>。
「時よ止まれと言いたかった」とは、現状の地位や情勢を維持したいという願望の表れである。関白の父と中宮である妹を持つ伊周は、一家の「栄華」がこのまま続いてほしいと願ったのである。
問5は、内容把握問題である<5分>。
「中宮は『何でも心に浮かんだ歌を』と言うけれども、まさか何でもというわけにはいかない」とある。つまり、「古歌の選び方によって、自分が『現在』をどう捉えているかを白状することになる」のである。
問6は、文章内容問題である<4分>。
イ この歌は、伊周にとって「余りに露骨」なために口にできなかったのである。しかし、この歌が「一家=わが家」の「栄華」を歌ったものであると捉えてみる。
ロ 「本歌のもつ〈栄華の謳歌〉の露骨さ」ゆえに伊周は、この歌を口にできなかったのである。
問7は、内容把握問題である<3分>。
この歌は「天皇・中宮へ巧みに世辞を使った歌」であるので、「天皇は…清少納言の機知を喜んだ」のである。
問8は、内容把握表現問題である<5分>。
「二本の線を共に成立させている」とは「二つの歌がある関係を持っている」ということである。本問の場合は「二つの歌のコンテクストを比較し、その関係を手掛かりに新歌に仕掛けられた意味の可能性」をたぐることである。
問9は、内容把握問題である<5分>。
「三十一字中たった二字違い」ではあるが、「一方がオリジナル、他方がその借用であることを確かめ、その借用の理由を尋ね、その狙いを楽しむ」のである。その両歌の「関係を手掛かりに新歌に仕掛けられた意味の可能性」をたぐるのであるが、「私たちは、言葉の意味よりも、言葉が用いられている場面に注目し、言語操作そのものがもつ意味を解釈の対象」とするのである。
問10は、内容把握問題である<5分>。
「三十一字中たった二字違い」とする歌を清少納言が詠んだが、オリジナルは伊周が「我が世の春=栄華」の思いを歌に込めたのである。清少納言は巧みに「言語操作」によって中宮の心の内を代弁したのであり、それは中宮の期待通りであったのである。
※以下の類似問題に挑戦しよう。
問 次の文章を読んで後の問いに答えなさい。
和歌の歴史において、『古今和歌集』が[ A ]を旨としたのに対し、中世の『新古今和歌集』は、言葉の端々から計り知れない奥行きを感じさせる幽玄の境地を追究した。この幽玄の美を達成するため、歌人たちは高度な修辞技術を駆使し、独自の作歌態度、すなわち「体(たい)」を確立していった。
藤原定家(ていか)が唱えた「体」の一つに「有心(うしん)体」がある。「有心体」とは、歌に詠まれた情景や事柄が、それ自体として完結するのではなく、読み手の心に深い余情や感慨を[ B ]するさまをいう。単なる叙景ではなく、叙景を通して内面の感情を表現し、読み手に情景の背後にある広大な世界を感じさせることを目指すのである。この態度は、万葉の歌のような、感情を直接的に吐露する姿勢とは対極にあると言えよう。
例えば、次の歌を鑑賞してみる。
しぐるるや 小野の御垣(みかき)の 苔のうへに たふれふすまで 濡るる袖かな
(寂蓮法師)
この歌は、「しぐれ(時雨)」が降る寂しい情景を描きながら、単に袖が濡れたという事実を伝えるものではない。[C]の「小野の御垣」という古びた場所は、作者の孤独感や無常観を象徴し、激しい時雨の中で[D]を表現している。定家はこの寂蓮の歌を「無言の歌」と評したが、それは言葉が尽きてなお、読み手の心に強く訴えかける余情の力があったからにほかならない。この「余情」こそが、有心体の核であり、新古今の歌が目指した幽玄の美の究極であった。
問1.空欄[A]、[B]に入る語句の組み合わせとして、本文の論旨に沿って最も適切なものを次から選びなさい。
1. A: 平明さ、 B: 昇華
2. A: 叙事性、 B: 伝達
3. A: 倫理性、 B: 統合
4. A: 技巧性、 B: 喚起
問2.筆者は、寂蓮の歌を引くことで、どのような作歌態度(「体」)の特質を説明しようとしているか。「余情」という言葉を用いて、40字以内で説明しなさい。
問3.寂蓮の歌「しぐるるや 小野の御垣の 苔のうへに たふれふすまで 濡るる袖かな」に関する以下の記述のうち、本文の論旨と和歌の解釈に合わないものを一つ選びなさい。
1. 歌の最後にある「袖かな」は詠嘆の表現であり、深い感動と余韻を伴う。
2. 「苔のうへに」は生命の力強さを象徴しており、荒涼とした情景の中にも明るさを見出そうとする歌人の姿勢を反映している。
3. 「たふれふすまで」という表現は、時雨が激しく降り注ぐ様子と、その中で動かない歌人の姿を重ね、孤独感を強調している。
4. 初句の「しぐるるや」は切れ字であり、歌の情景を際立たせ、歌全体に緊張感を与えている。
問4.空欄 [C]、[D]に入る語句の組み合わせとして最も適切なものを次から選びなさい。
1. C: 描写、 D: 喜び
2. C: 対比、 D: 恋情
3. C: 主題、 D: 悲哀
4. C: 構成、 D: 活気
《解答》
問1.4
問2.歌に詠まれた情景を通して、感情を直接的に吐露せず、読み手の心に深い余情を喚起する有心体の特質。
問3.2
問4.3
攻略のポイント
出題されている文章を正確かつ迅速に「読み込む力」がないと、正解にたどり着くことが難しいであろう。さらに、試験時間と問題数と内容密度の濃さを考えると、見直す時間的余裕はないものと思ってもらいたい。したがって、合格するためには極めて高い読解力と解答力(特に、記述・論述能力)が必要となる。20~40字、25字以内、70字の記述問題が出題されている。20~40字という字数で自分の考えをまとめるという作業は、高度な文章要約力が求められる。そのためには、論理的な文章の文脈を常に自分の頭で追いながら、論点は何か、筆者の主張の展開はどうなっているのか、ということを最高度に意識することである。そして、自分の頭で考えたことを次の段階で、文章に表現してみることである。頭で考えたことのたった1%しか文章として表現できないと言われている。常日頃、文章を書く習慣を身につけ論理の整った文章作成力を習得して欲しい。